窪美澄さんの最新作です!
<トリニティ=かけがえのない三つのもの>
窪美澄『トリニティ』は三人の女性の交差する人生が主となって物語が進みます。
三人の女性がそれぞれ人生の中で代償を払ってでも手に入れようとしたそれぞれのかけがえのないものとは?
自分の人生において「男女、仕事、結婚、子ども」の優先順位は?
「誰でも面白い一冊の本が書ける」という言葉を聞いたことがあります。それくらい一人の人生経験というものはかけがえないストーリーだということです。
『トリニティ』を読んで、
「面白い」という言葉で片付けていいのかと思ってしまうほど、のめり込んでしまいました。
三人の人生を賭けて求めてきたものが交差しながら浮かび上がる運命の物語です!
あらすじ
72歳の鈴子の元にイラストレーター早川朔の訃報が届きます。そしてその訃報を登紀子へ連絡するところから物語は始まります。
50年前出版社で出会った三人の女性が半生かけ、何を代償にしても手に入れようとした<トリニティ=かけがえのない三つのもの>がそれぞれの視点から交差するように描かれています。
昭和・平成から未来へと繋ぐ現代日本を生き抜く女性達を中心に紡がれる運命の物語です。
ここからネタバレ注意!
トリニティの感想(少しネタバレあり)
鈴子・妙子・登紀子
同じ出版社で出会った三人はそれぞれ手に入れたいものが違います。
「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたら――。
選ぶ三つの要素の掛け算は三人のことだけではなく、誰しもが違うものだと思います。
妙子は鈴子の結婚式で「神があわせられたもの」について何だろうと考えます。「父と子と聖霊の名において」その三つとは女にとっては一体なんなのか考えます。
すべてを手に入れたいとも。
鈴子も娘の満奈実には、
「専業主婦なんかつまんないわ。満奈実は仕事して自由に生きなさい」
と言ってしまうし、
登紀子もそれぞれ仕事が思い通りにいく時期もあれば思うようにいかない時期もあり、家族関係も不安定でどんな選択をする人生が正解だなんて言えることは、
絶対にありません。
後から振り返って
もしあの時、こういう選択をしていたら……
なんて考えは後悔とは関係なく想像することもあります。
でも、と思ってしまうのは、
三人それぞれの大きく見え隠れする求めるものに突き動かされていく人生は強力な力を持っているこということです。
当人たちの最後の想いは抜きにして、私は彼女達の生きる物語が今これからを生きる私達の希望のように思えました。
フィクションですけど、彼女達の気持ちは部分的にリアルで生々しいものとして迫ってきました。
三人のどの場面も手にいれたものと零れていってしまうものとのうまくいかないバランスが心に残ります。
違う価値観の三人ですが、
新宿のデモを見に行って三人して心の蓋を思い切り外すシーンや
鈴子の結婚式、しばらくぶりに三人で大いに酔っ払うシーンなど、
三人の出会いからの繋がりはそれぞれ手に入れたいと願ったものではないけれど、比べることのできない大切なもののように感じました。
奈帆の物語
年長者の話を聞いて何を感じるのだろう。
年長者の話に興味を持って耳を傾けること自体が少ないかもしれません。
でも、偶然が重なって登紀子の話を聞く機会を持った奈帆の物語はこれからの希望の物語です。
ブラック企業で働くとか平成の時代によく耳にした言葉の中で奈帆は生きています。
私としては一番感情移入できる話題でもあります。
「今とは時代が違う」という考え方は愚かなのかもしれません。
昔を賛美するという意味ではなくてその時代で生き抜く人たちは手抜かりなく続いていくからです。
奈帆が登紀子の語る話を通じて再生していく姿は今を歩む私にとっても心強かったです。
死を越えて繋がっていくものがその時生きる人の背中を押すということは間違いなくあります。
大人になった謙から妙子を尊敬する言葉が聞けたことも嬉しかったです。
感想のまとめ
時代背景も三島由紀夫や夏目漱石の名前や、地下鉄のテロ事件、あさま山荘事件などその時代のトピックがその時代を生きた登場人物の考えに影響を及ぼしていて、
ただのフィクションではなく私たちの世界の物語として感じることができました。
平成が終わるというタイミングに合ってるとも言えますが、
変わっていく時代の中で必死に生きてきた人たちの繋がりとして私たちがいる、
そういうことを重厚で圧倒的に感じさせてくれる物語でした。
最後の文章で語られている奈帆のように、
「まだ続いている。まだ続いていける。」
私も同じように歩き続けていこうと決めました。
終わりに
ずっと楽しみにしてきた読書です。
ここ数日の投稿でもお分かりだと思いますが、この日新作を読むことがずっと楽しみにしていた予定でした。
今朝10時に書店入りしてまだ平積みされていない本を店員さんに要求し購入し、併設されたカフェで読み耽りました。
昼ご飯で豆カレーを食べた以外は4杯のドリンクで繋いでひたすら離れられずに読みました。
止められない読書でした。こりゃ。頭の中が登場人物のことで一杯になってしまうもの。
特に150ページくらいからはどっぷり。もう読み終わるまで眠れないくらいの勢い笑
そして読み終わり、レビューを書き始めたのはこの物語がライターの物語だからということも大きく影響しています。
何かを書きたくて書きたくてたまらない想いでした。
後半のネタバレ告知してからも細かい場面の引用は避けました。
もし最後までこのレビューを読んでしまった方もこの小説は全部読んでずっしり味わえる濃厚な物語なのでぜひぜひ読んで欲しいです。
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