小説

宇佐見りん『かか』感想【痛みと切なさが描かれた、デビュー小説】

第56回文藝賞受賞作!

1999年生まれ20歳・宇佐見りんさんのデビュー小説。

人間の気分、気持ちが恐ろしいほど正確に文章化されている。そしてそれが何度も人間存在そのものに迫って胸を衝かれる。――町田康

この作者は、書くことの呪いにかかっている。それは、信頼できる、「作家」としての呪いだ。――村田沙耶香

濃い一本の線が引かれているような、はっきり胸に残る小説を紹介します。

簡単なあらすじ・内容説明

19歳の浪人生うーちゃんは、大好きな母親(かか)のことで悩んでいます。

かかは離婚を機に徐々に心を病み、酒を飲んでは暴れることを繰り返すようになりました。脆い母、身勝手な父、女性に生まれたこと、血縁で繋がる家族という単位……自分を縛る全てが恨めしく、縛られる自分が何より歯痒いうーちゃん。

彼女はある無謀な祈りを抱え、熊野へ旅立ちます。

ここからネタバレ注意!

かかのレビュー・感想(ネタバレあり)

かかとうーちゃん

全部で115ページの薄めの小説なのですが、その中で登場する家族の一人一人の存在はとても濃くて生々しいものを感じます。

読んでいて心地よいとか、大きく頷けるような共感ではないのですが、物語上にごろっと転がっている感情の塊はずしりと胸に圧し掛かります。

かか、かか、だいすきなかか、そいでも今のかかは穢れきってうざったくて泣くのがわざとらしくて自分のことしか考えてなくてころしたいほどにくいと思うことがある。

中でもかかとうーちゃんの関係には確かに「呪い」のようであり、「胸を衝かれ」ます。

かかが自分の今までをわざとらしくアピールする様も、うーちゃんがSNS上で嘘のかかの死を落とす様も似ていて、違う人間ですが存在として同じ、一体感を感じます。

そのお互いに自分として分かる部分と嫌悪する部分は、近ければ近い存在であるほどあり得るものだと私は思いながら読んでいました。

分かるから嫌悪するのだし、分かるから救ってあげたいとも思うのだと思います。

そういう深い感情の中で物語が進んでいって、うーちゃんがかかを産みたいと思う気持ちもなぜかわかってしまう異様とも言えるみたいな力はすごいですね。一語一語が迫ってくるような小説の力を感じました。

現代の世界とかか語で綴られる文章

感情の奥を潜っていくような小説は今までたくさん書かれてきて大好きな小説や心に残っている大切な作品もあります。

でもこの『かか』は新鮮味を感じる作品でした。

うーちゃんの語り文である文章自体は「かか語」がたくさん混じっていて、方言混じりの地元っぽさや「イッテキマンモス」「イッテラッシャイモス」のような人間味を濃く感じられるようなかか語で、ある意味の古さを感じます。

でもうーちゃんのSNSの空間はTwitterの世界を表したような今っぽさがあります。

合わさって感じる文章と読み手の私の今がすごく身近に感じられて、こういうバランスの小説が新鮮であっという間に読んでしまいました。

読み終えて……

細かい引用は避けますが子宮のくだり、クッキーのくだり、おまいことみっくんの存在など、115ページの中にぎゅうぎゅう詰めに小説の内容が凝縮されていてすごい密度を感じます。

読み終えて、何度も何度もぱらぱら捲るのですが、何度捲っても新しい気持ちの発見があって楽しめました。

ばばがもっとかかに愛情を与えていればとかそういう話ではないように思えます。かかがうーちゃんを身ごもらなければということでもないです。

だけどそれぞれの答えを抱えて縋る繋がりや想いが痛さを感じるくらいに描かれていて、色濃く胸に残りました。

終わりに

はじめは文体に読みにくさも感じました。でも慣れてくるとどっぷりでした。

余談ですが私の母親も「ただいマンモス」とか「おかえりなさいモス」とか言っていた時期があって、当時テレビで流行ったのかわかりませんが、懐かしく感じました。

今、当時の父や母と同じ以上の歳になって、その当時気づかなかった父や母の弱さを感じるような場面を思い出すことがあります。

感謝の気持ちも浮かぶし、父と母を大切に思う気持ちも浮かびます。

ただそれが「大好き」という言葉でくくれるものなのかは違うような気がします。嫌なところだってあるし、それが血縁で繋がる家族の単位なのだと思う部分もあります。

『かか』を読んでうーちゃんやかかの姿を見て、自分の気持ちも掘り下げられていくような気持ちを感じました。

読んでよかったと思える一冊でした。

ABOUT ME
いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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