52万部突破『推し、燃ゆ』著者による慟哭必至の最高傑作。
芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』は大きな話題になりました。
今までの著作である『かか』、『推し、燃ゆ』共に心につき刺さるような感覚を与えられ衝撃を受けてきたのですが、
受賞第一作である本作は、その前作までの評価で築かれたハードルを超えたかのような衝撃を受けました。
帯に書かれた紹介文です。
熱をおびた言葉の重なりから人間の悲哀がにじみ出る。これはもはやブルース!
ーー山田詠美
何度も、何度も染みました。著者の凄さは知っていたつもりでしたが、改めて驚かされました。
ーー中村文則
今回は大絶賛『くるまの娘』を紹介します。
あらすじ
17歳のかんこたち一家は、祖母の葬儀に向かうため、久しぶりの車中泊の旅をします。
思い出の景色や、車中泊の密なる空気が、家族のままならなさの根源にあるものを引き摺り出します。
ここからネタバレ注意!
『くるまの娘』の感想(ネタバレあり)
家族のままならなさ
この小説は家族の繋がりが描かれています。それはありふれた家族とは言えないけれど、実際に想像できる生々しい家族の形です。
母は脳梗塞の後遺症でなやみ、父は学校へ行かないと怒鳴ります。兄は、嫌気がさしたらしく家を出ていきました。弟は、母の実家近くの高校を受験し、来年から祖父母の家に行くことが決まっています。教室には友人がいないのでひとりですが、いじめは受けていません。
話すたびに形骸化した。というかんこの説明は確かにサラッと頭に入ってきます。
言葉だけの中身のない、家族のままならなさ。
でも、中身が失われたような形で入ってくるこんな説明は小説を通して
家族のままならなさとは、
「ああ、こう言うことなのだ」と実感を持って伝わってきます。
その実感が、胸の奥の奥まで掘り下げるような深い部分まで届きます。
私にとっては苦しく辛くて痛いと言うのが近いのだと思います。
各描写は何気ない行動まで詳細です。その詳細な描写が人間味を醸し出していて、さらに胸を突くのでしょう。
地獄とは
地獄の本質は続くこと、そのものだ。終わらないもの。繰り返されるもの。
こんな言葉を紡げる著者に驚きます。すごい。
地獄のような光景は寝て起きたらまたリセットされて繰り返されます。
過去のよかった場面、よくなかった場面がフラッシュバックされながら物語は進んでいくのですが、極限です。
生きているということは、死ななかった結果でしかない。みな、昨日の地獄を忘れて、今日の地獄を生きた。
恐ろしいのはかんこたち家族の生活は他人事には思えないこと。身近に感じられるのです。まるで私の未来の一つを描いているかのような小説。
だからこそ、
物語の終わり方
誰も死なず終わらず、光が差して春を迎えているような描写で、それだけ読めば少し明るい終わり方なのかもしれません。
でも前段までの感想でも書いた通り、地獄がまた始まるということと掛け合わせた皮肉のような描写なのかもしれません。
読む人によって捉え方は違うので様々な人の感想を知りたいと思います。
終わりに
薄めの小説ですが、分量に対して普段の倍の時間がかかりました。
それくらい濃密な言葉が積み上げられた文章。
読後感は決していい小説ではありませんが、ドキドキワクワクではなく、緊張しながら読み終えました。
きっと、いや、必ず次作も読みます。自分の感情のひだが目覚めていくような感覚はなかなか得られないものだから。
本作でいいなと思われた方は『推し、燃ゆ』もおすすめですがデビュー作『かか』もおすすめです。