『風神雷神図屛風』を軸に繰り広げられるアート・フィクションです!
書籍の表紙にもなっている「風神雷神」。ほとんどの方が教科書などで目にしたことがあると思います。俵屋宗達による作品です。
俵屋宗達の描いた風神雷神を実物でないとしても目にしたことは多いと思いますが俵屋宗達について知っていると言う方は少ないのではないのでしょうか。
そもそも謎の多い人物ですが、彼が生きたであろう時代背景を見てみると、そこには織田信長が天下を獲ろうとしていて、鉄砲や宗教など西洋の世界へと視野が広げられた時代でした。
では西洋ではどんな時代であったかというとルネサンス。ローマ帝国があり、絵画でいえばカラヴァッジョが台頭していこうという時代。
謎の多い時代です。ただ想像を存分に働かせてみればそんな日本とローマを繋ぐ物語があったのかもしれない。
だって実際に天正遣欧使節団が派遣された時代だったのだから。
もう壮大で、知れば知るほどロマンと感動と後の時代を知る私たちからすれば感慨深さを感じるような物語です。
簡単な内容紹介・あらすじ
日本が誇る名画『風神雷神図屏風』を軸に、海を越え、時代を超えて紡がれる奇跡の物語です。
京都国立博物館研究員の望月彩のもとに、マカオ博物館の学芸員、レイモンド・ウォンと名乗る男が現れます。
彼に導かれ、マカオを訪れた彩が目にしたものは、「風神雷神」が描かれた西洋絵画と、天正遣欧少年使節の一員・原マルティノの署名が残る古文書、そしてその中に記された「俵…屋…宗…達」の四文字でした。
織田信長への謁見、狩野永徳との出会い、宣教師ヴァリニャーノとの旅路……天才少年絵師・俵屋宗達が、イタリア・ルネサンスを体験していく、アートに満ちた壮大な冒険物語です。
ここからネタバレ注意!
風神雷神の感想(ネタバレあり)
激動の時代に生きる少年達の成長記
俵屋宗達や原マルティノが十代の少年から青年へと成長していく姿が描かれています。
私達が十代の頃と比べると彼らには使命があり、使命を果たすための強い気持ちもあります。
でも時折見せる無邪気さは少年らしくて、彼らの冒険譚は壮大です。
日本からローマへ行くのに船を使い、片道だけで何年もかかってしまうような時代です。
この物語の背景にある時代については私達はよく知っています。
織田信長が台頭し、天下まであと一歩というところで豊臣へと時代は流れていきます。そして徳川の世となり江戸時代へ入っていく。
織田信長の時代にキリスト教が受け入れられ、遣欧使節を送られるようになりました。
少年達は使命を携え、生きて国に戻れるかどうかも分からない旅にでます。
何年か後に帰ってきた時にはもう時代は流れていて鎖国へと時代が流れていくことを私たちは知っています。
だからこの物語はどうしても先を知っているからこそ、無邪気に夢を見て、使命に命を懸ける姿に私は物語の始めから終わりまでずっとやりきれなさも感じていました。
壮大で、切り開いていく面白さを感じながら、どうしても感じてしまう悲しさ。
でもだからこの小説の世界から目を離すことはできなかったし、心に残る作品になったのだと言えます。
西と東の絵が出会う奇跡
安土桃山時代に日本で一番栄えていた京都の街のにぎわい、都人のなりわいのいっさいを書き表した絵『洛中洛外図』。
加納永徳の描いた『洛中洛外図屛風』が織田信長が同盟を重視するために上杉謙信に送った話は有名です。
物語の中でそれを超えるような『洛中洛外図屏風』を加納永徳と俵屋宗達が描き、海を渡り、ローマ教皇の元へ。
ローマ教皇が待つヴァチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂の天井には〈天地創造〉が描かれてす。
神にもっとも近い場所、ヴァチカンの天井に広がる〈天地創造〉。
大海を渡り、苦難を越えて、ここまでたどり着いた〈洛中洛外図屏風〉。
西と東が、天の国と地の都が、ここであいまみえるのだ。
――これこそが、奇跡。
神が為したもう奇跡だ――。
そう気がついた瞬間、マルティノの心は震えた。
俵屋宗達がローマ教皇・グレゴリウス十三世に〈洛中洛外図屏風〉をお見せする場面は圧巻の場面です。
ここに引用はしませんが交わることがあり得なかったまるで違う文化で生きてきた西と東の絵がそれぞれの人の心に感動を与える瞬間です。
物語中の登場人物と同じく胸が一杯になりました。
風神雷神の感想まとめ
何かを伝えるにしても、どこかに行こうとしても、簡単にはいかない時代の話です。
だから全く違う価値観や文化があります。でも芸術が二つを繋ぎます。
私は正直に言うと本当に無知で俵屋宗達もカラヴァッジョもほとんど知ることがなく、風神雷神も見たことはあっても作者の名前すらもでてきませんでした。
それでも物語を読んでいて、一から俵屋宗達やカラヴァッジョの出てくる場面場面にどきどきしてその絵にお互いが感動する場面では、観たことのない絵のことでも胸の中に同じ(かどうかは分かりませんが)感動が広がりました。
美術に感動する気持ちがとても丁寧に描かれていて、そのアートを知っている人も知らない人も共感できてしまうすごい力が込められた作品。
あぁ、よかった。
終わりに
読み終わって洛中洛外図屏風やカラヴァッジョの絵画をネットで拾って眺めています。
こういう楽しみも嬉しい付加価値です。
カラバッジョ展もまだ行われているようで行けるとしたら1月大阪なので私の住むところからは遠くて考えてしまうのですが、ぜひ行きたい気持ちになっています。
とりあえずこの師走のわけもわからぬ忙しさを乗り越えて楽しみとして計画していければなと思います。