小説

瀬尾まいこ『春、戻る』感想【過去と未来を繋げる「おにいさん」と妹の物語】

瀬尾まいこさん、本屋大賞受賞おめでとうございます!

きっと本屋大賞受賞作品から読書を始めようという人は多いと思うんです。

学生世代がこの瀬尾まいこさんの作品を手に取る光景を思い浮かべると嬉しくなってしまいます。

読後深さのある温かい気持ちになって、読書の面白さを感じてくれそう。

私自身、人に勧めた作家のナンバーワンが瀬尾まいこさんで読後に感じるほっとするような気持ちは間違いなく好んでくれそうと思うからです。

本屋大賞発表があってつらつらと書いてしまいましたが今回紹介する作品は瀬尾まいこさんの『春、戻る』です。

私としては瀬尾まいこさんの作品の感じとして今回受賞作『そして、バトンは渡された』に近い雰囲気の作品。

また変わった家族の繋がりが描かれた話です。

そして、『そして、バトンは渡された』とはまた違う魅力があって面白いです!

あらすじ

結婚を控えたさくらの元に兄だと名乗る青年が現れます。

その青年は明らかに年下で、聞くと12歳年下です。

でも頑なに迷いもなく「おにいさん」を名乗りさくらを妹として気にかけます。

その理由も含めて過去と未来を優しく繋げるようなさくらの物語です。

ここからネタバレ注意

春、戻るの感想(ネタバレ)

24歳「おにいさん」と36歳の「妹」の出会い

「うわ、さくら。久しぶりじゃん」

外に出ると、すぐさま二十歳くらいの男の子が手を振りながら駆け寄ってきた。

「えっと、あの、どちら様でしょうか?」

突然目の前まで近づいてきた男の子に、私は思わず後ずさりした。

「どちら様って、うそだろう? お兄ちゃんだよ、お兄ちゃん」

物語の始まり、36歳の「妹」と24歳の「おにいさん」が出会った時の会話です。

突拍子もない設定にはじめは不安を感じました。

おにいさんは年齢以上に幼く見えてやや強引で変な人間に見えます。

会話や綴られていく文章は柔らかで優しい雰囲気が漂っているのにまるで先が読めないストーリーです。

でも最後まで読んでみればおにいさんの強さや使命感に合わせて弱さや臆病なところも伝わってきてじんと胸にくるものがありました。

さくらの過去の重み

瀬尾まいこさんは教員として勤めていた経験をお持ちです。

あくまで小説はフィクションなので経験と文章を絡めるのはいけないこともあります。

ただ学級運営の中でうまくいかない描写や子どもたちの人間関係に苦しむ描写はとても迫力があって胸に訴えるものがあります。

さくらの学級運営の悩みはとても重く読んでいて苦しいです。

食欲がなくなり痩せていって明日が暗く見える。これは教職ではなくても経験した人は結構いるのではないでしょうか。

これは学級運営がうまくいかなくなったさくらがうまくいくような幸せな流れではありません。さくらがたった一年で辞めてしまうのはとてもリアリティがあります。

思いつめるさくらを娘のように気にしていた校長先生との繋がりがこの物語の設定なのでした。

物語の謎が紐解けていくと優しさに囲まれた物語なんだということが分かります。

さくらの過去は成功できなかった挫折の過去ですが、思い出せば憂鬱になるような失敗の過去はけして悪いことではないと思えました。

ラストシーンの感動!

突拍子のない始まりからそれでも距離を縮めていくおにいさんとさくらを経て、真実が明らかになります。

ラストのさくらの結婚式は涙・涙でした。

 いい歳になって、母親も喜んでくれて、お義母さんたちともうまくやれそうで。結婚しようと踏み切った源は、核心に触れないものばかりだった。だけど、遊園地に行って、夜の電車に揺られて、一緒に名も知らないお兄さんのことを捜して……。お兄さんが出現して予定が狂っていく中で、確かになっていったものがある。

さくらの過去も今も、うまくいってないことはたくさんあります。全てがすっきりするようなものでもありません。

でもそんなうまくいかない綻びみたいな時間があったとしても、その時に関わった「おにいさん」みたいな存在のみんながいるから「まあいいか」と思えます。

そんなことを考えて変わらないおにいさんの追いかけるラストがぐっと胸に響きました。

『春、戻る』を読んだ後、感じたこと

今までを振り返って蓋をしたくなるような経験はありませんか。

そういう経験って安易に乗り越えるという言葉で片付けられないと思います。成功体験とセットの過去でもない限り。

ただ苦しくそこにある。でもそういう過去もどこかの地点で、ふとしたきっかけで少しだけ前向きに捉えられる時があったりする。

瀬尾まいこさんの小説の中で与えてくれる救いのようなものは温かくて嬉しいです。

だから、読書の好みはみんなそれぞれあっても、勧めてしまうのだと思います。

瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』【本屋大賞ノミネート作品。身近にいる人を大切に思える温かな物語】本屋大賞ノミネート作品。 https://tokeichikura.com/2019honyataisyou 小説の読後感は...
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一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

POSTED COMMENT

  1. アバター たちつぼすみれ より:

    私も最近この本を読みました
    一蔵さんの紹介文を読ませていただき、もう一度この作品を振り返ることができました
    読んでいる途中はおにいさんってどんな人なんだろうと想像が膨らみつつバッドエンドじゃないといいなと思ってしまったり…
    一蔵さんが書かれていたようにこんな風に蓋をしてしまった過去を前向きに春の暖かな光のように捉えられる日がきたらいいなと思いました

    • 一蔵とけい 一蔵とけい より:

      たちつぼすみれ様
      素敵なコメントありがとうございます!返信遅れてすみません。
      おにいさんの存在がどんな人なのか気になりながら、読んでいる最中は色々な想像が膨らみますよね。
      同じ気持ちで私も読み進めていました。
      過去を前向きに受け止めて今の力に変えて行くような感覚を持ちたいと思います。
      なかなか今は暗いニュースも多いですが、こういう小説の読書をして救われることが多いです。

      返信遅れてすみません。ありがとうございました!

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