本屋大賞受賞作家の最新作!
瀬尾まいこさんの作品は2019年本屋大賞受賞した『そして、バトンは渡された』だけではなく、
映画化された『幸福な食卓』、
スピンオフも出ている人気小説『あと少し、もう少し』など、
本屋の文庫のコーナーに行けば平積みでいつも並んでいるたくさんの人気作品があります。
当ブログでも今までたくさんの著作を紹介させていただきました。
新作『夏の体温』は作品集で3つの「出会い」がもたらす奇跡が綴じられています。
あらすじ
夏休み、小学三年生の瑛介は血小板数値の経過観察で一か月以上入院している。
退屈な病院での日々の中である日低身長の検査入院で壮太と出会う。たちまち打ち解けた二人。
でも一緒にいられるのはあと少ししかない。瑛介の心の変化を描いた表題作「夏の体温」。
「性格の悪いやつ探しているなら、ストブラだ」
私は小説のモデルを探していて、大学の知人に当たるとそんな推薦を受けた。
ストブラのエピソードを聞くために私はストブラという人間に触れていく「魅惑の極悪人ファイル」。
中学国語教科書に掲載された掌編「花曇りの向こう」。
本屋大賞作家・瀬尾まいこさんが描く「出会い」がもたらす「奇跡」の作品集。
ここからネタバレ注意!
『夏の体温』の感想(ネタバレあり)
「夏の体温」の感想
血小板数値の経過観察で一か月以上入院する瑛介と低身長の検査入院を何度も繰り返してきた壮太の物語。
二人の病院での出会いは優しく、思いのほか明るい。
壮太の前向きさは小学生だけではなくて、大人にも響く。
「ということは、俺たちは不幸仲間で―」
「イエーイ」
壮太に引っ張られて瑛介も不安が反転していくように笑う。
きっと傍から見ていた他人だったら笑い飛ばしてあげることはできない。でも、当事者の二人だからこそ、今を思いっきり楽しむことができる。
こういう気持ちが作用し合っていくやりとりは繊細だけど、とても温かい。今取り巻く自分のあれこれマイナスも同じように反転するような豪快な力がある。
彼らがこれからこれ以上ない熱い夏を思い切り二人で楽しめる様子を想像したら嬉しくなった。
「魅惑の極悪人ファイル」の感想
ストブラってパワーワード!
何だよストブラって読んでいくとストブラの人間性に惹き込まれていく。
どんなろくでもない人間なんだと思って読み進めていたのに、いつの間にかストブラの魅力で頭の中は一杯になっていた。
私は私で、
「結局、一人なのはあのころと一緒だ。」
と人付き合いについて抱えている壁のような気持ちがある。一人称で語られる彼女の気持ちには共感できる部分がたくさんあって、ストブラと出会って壁を越えて(壊されて?)、二人の関係が近づいていくのに温かい気持ちになった。
最後の終わり方もとても好きな作品です。
「花曇りの向こう」の感想
こんな小説が中学校の教科書に収録されていたのか、と驚きだった。
私も中学生の時に読みたかった。最近続くぼんやりとした花曇りと、手に下げた袋の中にあるあまずっぱい梅干しがあるという変化の対比はいい余韻。
掌編だけれども瀬尾まいこさんの小説の魅力が詰まった話だと思う。中学生がこの話を読んで瀬尾まいこさんの小説を手に取って感情を揺らしてくれたら嬉しい。
私もやっぱり小説に触れた原点はだったから。
終わりに
身長差を始め、自分の抱えている物事は時として高く大きな違いに感じられて自分の気持ちを不安定にさせるけど、実はそれは捉え方次第で小さいハードルだったりもする。
そんなプラスの捉え方に展示させてくれたり、ハードルを飛ぼうっていう気持ちにさせてくれたりする出会いがこの小説には散りばめられている。
こういうことは若い世代だけの話なのだろうか。
私達は成長していくにしたがって様々な物事をハードルとして子どもみたいに無邪気に仲良くなることができないように感じられるけど実際はそうだろうか。
きっと違うでしょう。
だって本を閉じた時の読後感が前向きさに満ちていたから。
だから『夏の体温』は大人にも子どもにも誰にでもお薦めしたくなる作品集でした。