2019年本屋大賞受賞作家のデビュー作です!
坊っちゃん文学賞を受賞しデビューした作品です。
中編といえるくらい(もしかしたら短編)の分量の物語で、私はこの物語で瀬尾まいこさんと出会って大きな衝撃を受けました。
とにかく好きな雰囲気だったからです。
抽象的ですね。でも、表題作の「卵の緒」を読んでリラックスできるような温かな雰囲気に驚いて、そして一緒に収められていた「7’s blood」を読んであるシーンで泣きました。
それからその時既に出ていた作品を読み漁り、そのうち新刊を楽しみに待つような作家の一人になりました。
お勧めの作品ばかりなのですが(実際に都度周りの人に勧めてきました)、今回『そして、バトンは渡された』が受賞になり、改めて瀬尾まいこさんに興味を持った人に5作品勧めるとしたらと考えていた時にまず頭に浮かんだのはこの『卵の緒』でした。
(昨日紹介した『春、戻る』もその5作品の内の一つです)
あらすじ
「僕は捨て子だ。」
小学生の育生はそう思っています。
育夫の日々の中には元気なお母さんとお母さんのボーイフレンドである朝ちゃん、不登校になっている同級生の池内くんがいます。
育生の目を通して語られる話はユニークな家族の物語です。
ここからネタバレ注意
卵の緒の感想(ネタバレ)
育生と母さん
育生は優しい。
何度も母さんはそう言います。
先生が困っていればなんだかんだで手伝ってしまったり、最後の池内くんが家に来た時も
「登校拒否児にしては食欲満点ね」
と池内君に話す母親にこっそり
「あんまり登校拒否児って池内君に言わないで」
と耳打ちする。
生真面目でそれでいて人の気持ちを考えることができる育生です。
母親はその逆とまでは言いませんがあけっぴろげで先ほどの育生の耳打ちがあっても次の瞬間には忠告を破ってしまう。
直感重視で鋭い母親です。
だけど悪気はまるでないので読んでいる方は母さんの言うことに全く嫌な気持ちはしないのです。
違うタイプの親子なのですが、とても仲がいいのです。だから2人の掛け合いは悪い気持ちが全くしません。
何を言うかではなくて誰が言うかが大事だと、どこかの偉い人に言われたことがありますが、そういうことですよね。
2人は2人で過ごしてきて仲がいいのです。
最後に育生が悟るように、
そして、親子の絆はへその緒でも卵の殻でもないこともわかった。それはもっと、掴みどころがなくてとても確かなもの。だいたい大切なものはみんなそうだ。
確かな親子の絆を感じることができるラストにほっこりしました。
卵の緒の感想まとめ
育生と母さんの話の他にも池内君や朝ちゃんと言った人物が登場します。
それぞれ温かい個性を持った人物です。
小学生の育生の周りでは「不登校」だったり「新しい家族」だったり、大人になってみればありきたりにも思えるけど大きな出来事が起きます。
でもどの人物も前向きな明るさを持っていてなんか微笑ましい物語なんですよね。
色んな出来事の中でまだ透明に近い育生が感じることが瑞々しくて素敵な物語でした。
卵を子どもに見立てていつの間にか本気になっている育生の姿、好きです。
母さんの過去を話す終盤のシーンは母さんらしくてその時感じた気持ちの強さは美しいです。そしてその話を聞いてなぜか泣ける育生の透き通った気持ちにこちらは胸が一杯になりました。
最後の「育子」は少し笑ってしまいましたけど、家族関係の良さがにじみ出ていて読後感もすっきりいい気持ちです。
終わってみれば素敵な家族の物語でした。
収録書き下ろし作「7’s blood」
こちらは単行本版、文庫版に収録されている書き下ろし短編です。
異母兄弟である姉と弟の物語です。一緒に暮らすことになり、父の愛人の子どもである七生との生活に始めは不信感を感じながらも少しずつ2人の距離は縮まっていきます。
また「卵の緒」とはまた違った家族の物語です。
七子の誕生日に七生がケーキを買うのですが出す事ができなくて腐らせてしまうくだりがあります。
七生は感情を露わにして必死にケーキを隠します。
普段感情を表に出すことが無くて愛想よく容量がいい七生の必死に隠す姿に七子は半ば無理やり隠したものを見ます。
見られて俯く七生がいて、七子はそれが自分の誕生日のためのケーキであることを知ります。
その後のシーンはあえて説明しませんが、その必死で隠す七生の姿と、珍しく必死になっている姿を見てそれを知りたいと思う七子。
ケーキを見つけた後の七子とそれを見ている七生の姿の描写に、
ぎゅっと胸が苦しくなって、
読んだ当時、号泣でした。
七子の姿というよりは七生の気持ちを辿ったのだと思います。
ケーキを見つけた後の七子の行動を見て声をかける七生の気持ちが浮かんでいる描写もツボに入ってしまって。
こちらもいい物語でした。
漫画化もされているのですね!
卵の緒を読んで感じたこと
本屋大賞を受賞しましたが瀬尾まいこさんの書く作品の中で人の真っすぐな部分で繋がる絆は大きく共通する部分のような気がします。
家族だったり、先生と生徒だったり、その形は様々ですが、温かい部分で影響し合って励まされるように前を向く話に私自身影響されてきました。
デビュー作ですが、本当に素敵な本です。
特に本屋大賞の『そして、バトンは渡された』や昨日投稿した『春、戻る』を読んで好きになった人には好きな本になってくれるだろうと思ってしまう一冊です。