むかしばなしは誰もが知っているという意味で最高のストーリーなのかもしれません。
桃太郎とか浦島太郎、かぐや姫など知らない人はそういないと思います。
何で知ったのかも覚えてないような物語なのに、印象的だからでしょうかずっと忘れない分かりやすさと親しみやすさがあって不思議です。
今回、紹介するのは三浦しをんさんの書いた『むかしのはなし』です。
三浦しをんさんはドラマ化や映画化された作品も多く、今年の本屋大賞でも『愛なき世界』がノミネートされた今最も活躍されている作家さんの一人です。
そんな三浦しをんさんが描く現代版むかしばなしです。
あらすじ・説明
くくりとしては短編集に入ると思います。
連作とも言えるかもしれません。
背景が繋がっています。
それぞれの短編の前にその短編の題材となっている昔話の梗概が載せられています。
具体的には(かぐや姫、花咲か爺、天女の羽衣、浦島太郎、鉢かづき、猿婿入り、桃太郎)といった昔話を題材としているけれども、作者がそこから自由に発想、連想し、まとめ上げた7編の短編が入っています。
むかしのはなしの感想
著者のあとがきで「すべて、いま「昔話」が生まれるとしたら、と考えた結果である。」と書かれています。
読み終えるとごく精巧に綴られた作品だということがわかります。
ただ桃太郎なら仲間を連れて悪を退治に行く、浦島太郎なら誰かを助けてご褒美をもらう、かぐや姫なら素敵な娘や結婚相手と逃れられない別れを遂げるといったレベルでの連想ではないです。
昔話が題材と言われなければわからないレベルです。
そしてそれぞれの話が独立して面白いです。
特にお気に入りは「鉢かづき」を題材とした「たどりつくまで」、雰囲気も含めてとても好きな話でした。
内容は少しでも話すと魅力が薄れそうなので触りも言わないことにします。最後の「懐かしき川べりの町の物語せよ」もこの本全体の面白さを深めてくれる魅力的な話でした。
例えば今現在の話がなにがしかの形で語り継がれて、それが未来の昔話となるのならばどんな話になるのでしょうか?
私が思ったのは、この短編の冒頭それぞれの題材となっている昔話の梗概を読むとやっぱり面白いんです。
「猿婿入り」とか梗概の雰囲気だけで感じるものがありました。風化しない物語性がどこかに存在していてそれを感じているような気がして。その物語性の魅力はきっと昔も今も、きっと未来も変わりがないものなのかもしれません。
小難しいことは置いておいて、この短編集を読み終わって感じたことは、趣があるというか。
物悲しさの中に浮かぶような面白さを感じました。じんわりと悲しさと面白さで満たされます。
むかしのはなしを読んで感じた〇〇
三浦しをんさんの描く話の切り口は意外性に溢れていて驚くことが多いです。
読んでいてその文章や言葉に興味を持つし、一つ一つの言葉を大切に読んでいる自分がいます。
作り込まれた世界に浸れる瞬間は読書している中で幸せを感じる瞬間でもあります。
そんな幸せな時間を感じさせてくれた一冊でした。