今回紹介するのは吉田修一『横道世之介』です。
2010年本屋大賞で3位となっていて、高良健吾さん主演で映画化もされた物語です。
先月『続 横道世之介』が発売されて再度脚光を浴びています。
人名ということは分かっても「横道世之介」ってなかなかインパクトある名前ですよね。
浪人か武士か!
至って特別ではない男なのだけど、だからこそ特別な魅力を感じてしまうという矛盾。
私も『続 横道世之介』を読むにあたってまず『横道世之介』を再読したのですが、昔読んだ時よりも彼の魅力にはまってしまいました。
あらすじ
1980年代後半、長崎から1人上京した横道世之介の大学生活を描く青春小説です。
1980年代後半のバブル真っただ中、友達の結婚に出産、学園祭でのサンバ行進、お嬢様との恋愛、カメラとの出会いなど世之介の周りでは様々な出来事が起こります。
そんな世之介の生活とその時、世之介の周りにいた人々の20年後の場面がクロスオーバーして描かれています。
世之介の押しの弱さと芯の強さが合わさって可笑しいのですがまっすぐで最後に感動が広がるような物語です。
ここからネタバレ注意。
横道世之介の感想(ネタバレあり)
横道世之介の魅力
昔読んだ時よりもずっと笑えて横道世之介の考え方に頷けました。
だらしないところとたくさんある男なのだけど魅力的で何年も経ってふと笑いながら思い出してしまうような男です。
夏のバイトで友人の迷惑を省みず、エアコンのある友人の部屋に入り浸る世之介の姿はそれだけで考えると本当に、
ずうずうしい!
だけど、小説を読んでいるとずうずうしさも含めて世之介の素直さというか率直な気持ちから生まれる行動が、
憎めない!
友人の出産があって「金を貸して欲しい」という言葉に即答で「あるからいいよ」と答えてしまう疑うことの知らない真っすぐさは危ういけれども優しいですよね。
そして世之介の行動には笑いがあります。
たくさんの笑いの場面はあるのですが、私が一番ツボに入ってしまったのは、
世之介は頭に血が上ると古風な日本語になっていまう点!
長崎のスナックで出会った正樹と喧嘩になってしまう場面、
「表出ろ! 表!」
顔面蒼白になった正樹が叫ぶ。心の中では、「行ってやろうじゃねぇか!」なのだが、なぜか、「行きますぞ!」と叫んでしまう。
勘弁してください。なんだ、その設定と笑いながら思いました。
でも怒りなれていない世之介だからこその特徴と考えるとしみじみ笑
完全に世之介の虜ですね。
クロスオーバーする十五年後の世界
ただ世之介の青春物語が綴られている話ではありません。
祥子さんや千春さん、倉持くんなど世之介の大学時代関わった人たちの十五年後の姿がクロスオーバーする形で描かれています。
その関わった人達が十五年後どうなっているのかということ自体も興味を引くことではあるのですが、笑える世之介の物語なのに泣けてしまう情報がちらちらと顔を出します。
横道世之介の十五年後に起きるニュースです。
何気なく日常を過ごしていく中で起きる事件や事故。
そしてそれがいつか起こり得ると分かってしまうと楽しくて笑える過去の世界の見方ががらりと変わってしまいます。
面白いのに悲しくて辛い。
でも物語の進む方向から目が離せない。そんな気持ちでした。
ラストについて
全てが繋がった十五年後で世之介の見ていた世界をしみじみ感じます。
祥子さんに送られた写真を通して世之介の写真の一枚一枚には「絶望」より「希望」に目を向けられていることに気づきます。
母親の祥子に当てた手紙、
でも、あの子はきっと助けられると思ったんだろうなって。「ダメだ、助けられない」ではなくて、その瞬間、「大丈夫、助けられる」と思ったんだろうって。そして、そう思えた世之介を、おばさんはとても誇りに思うんです。
あぁ、世之介の根本に流れるものが魅力なのだと感じて本を閉じました。
終わりに
私の実家が一時期花小金井だったこともあって(私は1年ちょっとしか過ごしてませんが)しみじみ想像しながら読みました。
うちの小さい弟(といっても今年度社会人になりました)が高良健吾に似てはいませんがこの世之介に被ります。その弟に『横道世之介』のDVD見せられたことを思い出しました。
弟は高校時代写真部だったし花小金井いたし思い切り影響されて育ったのかも。
確かに兄としては自慢したくなるいい男です笑(兄馬鹿です)
私はこの本を読んで、
横道世之介みたいに、絶望よりも希望に目を向けられて、「駄目だ、できない」より「大丈夫、できる」とまず思えるような人になりたい
と強く思いました。
[…] […]