小説

【サイコーな提案までに】町田そのこ『宙ごはん』感想

町田そのこさん、最新作!

プロモーションムービーまで開設されていて注目度の高い一冊です。

それもそのはず!

町田そのこさんは『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞受賞し、受賞後、『星を掬う』も大変話題に。

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描かれる感情は読むだけで苦しく感じてしまうこともあるけれど、深いところからまるっと一緒に救われるそんな唯一無二の作品でした。

『宙ごはん』は序盤から登場人物の魅力が一杯ですぐに夢中になった最高の読書時間を与えてくれた一冊を紹介します。

『宙ごはん』のあらすじ

物ごころがついた時から育ての「ママ」と一緒に暮らしてきた宙。

小学校入学をきっかけに産みの「お母さん」、花野と暮らすことになります。

しかし、彼女は理想の母親増からは程遠く…‥。

愛し方がわからない花野。甘え方がわからない宙。

家族を手探りする2人とその周りの人間模様が描かれ、そこには記憶に残る食卓があります。

5話で成る救いと再生の物語です。

ここからネタバレ注意!

『宙ごはん』の感想(ネタバレあり)

温かい料理が包み込む世界

ふわふわパンケーキ、ほこほこにゅうめん、とろとろボタージュ、ぱらぱらレタス卵チャーハン……。

言葉を辿るだけで温かい気持ちになれる料理ではありませんか。

どんな雰囲気の小説なの?と聞かれたら、色々と語る言葉があるのだけど、読後、こんな料理のような気持ちになれる小説だよと私は答えます。

小説の中の食べ物って小説家によっては全然無機質に感じられるものもあるけれど、この作品の中の食べ物は心が温かくなってくるようなものであり、描かれ方がされています。

読みながら味覚まで刺激されながら、全身で作品の雰囲気を感じさせてくれるので、第一話を読み終えてすぐにこれは好物の作品だと感じました。

宙と花野の関係性の変化

変化というよりも成長という方がしっくりくるような気もします。

それくらい関わり方のわからない2人の関係は話を積み重ねていくごとに変わっていきます。

そしてその変化には温かさが伴っています。

あらすじからも感じられると思いますが2人の関係は一筋縄ではいかない複雑さがあります。

そこにはかなり重い境遇がそれぞれにあって、私は大人びて感じられる宙の挙動や言動だけで胸が一杯になっていました。

「大丈夫。わたしはカノさんほど、弱くない」

小学生がこんなことが言えてしまうそれまでを思うだけでなかなかに苦しくなります。

だから、終盤になって2人の信頼関係には、親子以上というと語弊があるのかもしれませんが、人と人との繋がりもプラスして感じられて微笑ましく感じられました。

2人の周りの人間模様

多大なネタバレは避けますが、それぞれの話ごとにたくさんの登場人物がいます。

話が切り替わると時間軸も進むのですが、今までの登場人物の変化には衝撃があります。

それは簡単に受け止められないくらいの衝撃で、読み進めながら宙の言葉と共に整理されていきました。

大きなものから小さなものまでたくさんの登場人物と心を動かされたエピソードがあるのですが、私がいきなり初めに涙をしてしまった場面があります。

それは宙とマリーとの関係です。

第一話では怒りを感じながら宙とマリーのやりとりを読んでいたのですが、第二話に入ってマリーが家にやってきた時の会話は不覚にも泣きながら読んでいました。

町田そのこさんの作品はそれぞれの登場人物の繊細な気持ちの変化が蔑ろにされておらず、どの人物にも背景があって気持ちが動いて、出会いや再会はその掛け算なのだと思わせられます。

だから宙とマリーの会話は小さな子の成長に優しさも含まれていて、嬉しさがありました。

他にも佐伯さんのことや、遠宮くんのこと、風海さんのことなど、いくらでも語れそうなエピソードばかり。

どれも苦しさを伴う場面があるのですが、だからこそ心にも残って、読み終わって私の中で小説世界の先のこれからを想像したときに前に進んで欲しいと願わずにはいられません。

物語の終わり方

最後の六行。これは涙なしでは読めないです。

話を初めから読み進めて最後の六行を感じてほしい。私がこの本をお薦めする大きな理由です。

これ以上の終わり方があるのだろうかと思えるくらい一行一行にぐわんぐわん胸の中心を鷲掴みにされて振られる気分でした。

終わりに

私には日々いろんな問題があって、頭が一杯になって悩んだり、もしくは麻痺させてなんとなく過ごしたりしているけれど、その先にどこに辿り着くのだろうと時々考えます。

それが願っている地点ではないのかもしれないという恐怖もあります。

その辿り着く地点に固執するのではなく、いつかここに来たと思える地点で、振り返って、そんな悩んだり麻痺させて頑張り続ける自分に対して、大丈夫だって温かい声をかけられたらいいと思います。

日々やることは変わらないけれど、読書を通して、自分自身の視野も広げてくれて、麻痺した感情を揺れ動かし、読後温かい感情にさせてくれる素敵な読書でした。

是非是非おすすめの一冊です。

ABOUT ME
いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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