2019年、伊坂幸太郎さんの最新作です!
今までにない取り組みの物語が2作品収められています。
今までにないとは?
ごく簡単に言えば八組の小説家たちが原始時代から未来までのそれぞれの時代の物語を書くことになり、伊坂幸太郎さんは、
- 昭和バブル期
- 近未来
の話を書いています。
それがこの本に収められている「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」というわけです。
このプロジェクトに通底するテーマがあります。
それはあとがきでもテーマについて触れられていますが、私は何も知らずに読み、驚き、わくわくして、存分に楽しみました。
このプロジェクトに参加している他の作家の作品を読まなければ楽しめないとかそういうものは一切ありません。
しかし、この本に入っている2作品を続けて読んでみると浮かび上がる楽しさもありました。
1作品ごとのページを捲る手を止められない面白さに加えて、1冊読んで感じる新しい感覚の面白さも感じる、そんな読書ができる本でした。
Contents
あらすじ
出会ってはいけない二人が出会った時、世界の均衡は崩れ、物語は暴走していく。
2つ物語が収められています。
『シーソーモンスター』は昭和バブル期の物語です。
運命的にそりが合わない嫁姑の争いと板挟みになっている夫の話です。
ただの家庭内の不和を描いた作品ではなく、嫁姑の表とも裏とも言えない顔が絡みに絡んで夫が巻き込まれていく出来事が想定外の展開で描かれています。
『スピンモンスター』は近未来の話です。
配達人の「僕」は意識しないわけにはいかない過去と人間がいます。
ある天才エンジニアが遺した手紙を握りしめ、そんな配達人と天才エンジニアの旧友が見えない敵の暴走を前に奮闘する話です。
中央公論新社130周年記念の文芸誌「小説BOC」の競作企画で伊坂幸太郎さんが生んだ2作品が収められています。
ここからネタバレ注意
書籍『シーソーモンスター』の感想(ネタバレあり)
「シーソーモンスター」の感想
夫と嫁姑の魅力
伊坂作品に登場する人物の個性はいつも魅力的です。
夫は少しとぼけているようなところがあっても正義感というか、迷いと真摯に向き合うところが素敵です。
自分の悩みを吐き出すよりも宮子のことを考えて愚痴を聞く姿は好感ばかりです。
だから嫁姑二人から愛されるわけですね。
そして嫁姑共に裏の顔があり、その謎が明かされる場面がすがすがしい!
胸がすくようなアクションシーンで嫁姑二人が終盤躍動する姿はたまらないです。
嫁も姑も本気で合わないけども力を合わせるとすごいものが出来上がります。
それは夫を救うために力を合わせる姿だったり、2人で絵本を作る作業などあります。
いがみ合う中で間に挟まれる夫を含めたそういう関係が当事者的にはストレスフルでも時々微笑ましくて読んでいて楽しかったです。
感じた2つの面白さ
姑は一体何をしているのか?
姑を囲う死の状況が何を意味しているのかいがみ合う嫁から見た謎が本当は何なのか気になります。
実は嫁も姑も同じ穴のムジナでそれによって明かされる数々の伏線はやはり、
うーん、なるほど!!!
と唸ってしまうような切れ味です。
そして若医院長を中心とする分かりやすい悪(綿貫さんは本当に意外でした)を成敗するシーンはすがすがしいですね。
「すっきり」と「モヤっと」というテレビ番組がありますがまさに、
「すっきり」させてくれる面白さが物語を彩ってくれて読後もいい気分でした!
「シーソーモンスター」のまとめ、読後感じたこと
夫である「私」が営業で立ち回る姿はリアルで胸が痛くなる部分もありました。
無理難題言われてもうまく立ち回らなくてはならない胃の痛さはよく分かります。
営業の妻とデートをさせろという若医院長は本当に怒りを覚えて、それに怒りを感じてくれた「私」にほっとしました。
昭和バブル期という時代背景がスケールの大きな接待をリアルに感じさせます。
いい部分も悪い部分も振り返られることの多い時代で、今に繋がっている部分も多いと思います。
特に元号が変わる今の時期だからなおさらか、時代について読みながら意識するポイントでもありました。
「スピンモンスター」の感想
近未来の世界観
「シーソーモンスター」と違って2050年という未来の物語です。
だから「新東京駅」があったり「ジュロク」という新しい音楽のジャンルがあったり興味深い伊坂幸太郎的未来の世界があります。
デジタル化を越してアナログとの融合バランスの変化は納得できる部分も多くて変化の根拠も含めて、
世界観すごい!
この一言です。
水戸と桧山
「シーソーモンスター」の嫁姑のように天敵とも呼べる家計があります。
「シーソーモンスター」を読んでこの「スピンモンスター」を読んでいるのでどこか嫁姑の設定を頭に浮かべながら二人を眺めますが水戸と桧山の関係はより重いトラウマのようなものです。
水戸は高速道路のパーキングで子どもを助けるなど優しさを感じる場面もありますが、記憶している過去と実際の過去との混乱で苦しんで行く姿は苦しいものがありました。
状況によっては命を奪うことも考えてしまう二人なのですが二人がお互いの存在を自分にとって切っても切り離せない存在と思っていることは感じ取れます。
悲しい結末を辿りますが最後の桧山と中尊寺の会話で対立しても迎えることのできる明るさのようなものを感じることができて良かったです。
特に中尊寺敦が言ったセリフ。
「対立する者同士でも、相手のことを知ろうとすることはできる。いや、相手のことを知ろうとすることは大事なことだ。対立していると、相手のことは歪んでしか見えなくなるらしいからな。あの、おばあさんが言ってたように」
このセリフが対立の先にある関係の明るみを感じさせてくれました。
特に「おばあさん」があの宮子さんの言葉ですからなおさら、深く頷けました。
「スピンモンスター」のまとめ、読後感じたこと
発達したAIや操作とも言える情報に流される人々など、考える部分の多い世界が広がっていました。
未来の話ではなくて、今の私も嘘か本当か分からない情報で物事にレッテルを貼って過ごしていることも多くて、怖くなる時もあります。
ただ情報と事実を恐ろしく思うだけではなくて、この物語で語られたような人の気持ちの動きが未来の動きには伴うものなので、一つ一つのこれからを大事に生きていこうと改めて感じました。
また「アイムマイマイ」の話など「シーソーモンスター」の繋がりをよく感じることができます。
だから「スピンモンスター」が完結した一つの物語でありながら、一冊の本として「シーソーモンスター」の後の時代の物語という面白さまで感じさせてくれる贅沢なお話でした。
シーソーモンスターを読み終わって感じた〇〇
「人と人との対立」というキーワードで「海族と山族の血筋をひく者同士はぶつかり合う運命にある」という設定で綴られた物語でした。
対立するという関係の先にある関係が「シーソーモンスター」にも「スピンモンスター」にも最後にはうっすらとではありますが感じることができて読後感もよかったです。
はらはらどきどきするアクションやユーモアのある会話、謎解きの面白さなど、読んでいる最中楽しくて仕方がありませんでした。
伊坂幸太郎さんの作品は「面白さ」が溢れています!
一気読みしてしまうほどの面白さでした!