小説

綿矢りさ『生のみ生のままで』感想【女性同士の鮮烈なる恋愛小説】

綿矢りさのひたむきで情熱的な恋愛を描く長編小説です。

「こんなに惹きつけあったなら、もうだれにも止められない。正直者たちのヒリヒリする生き方の良さよ!」――吉本ばなな氏(作家)

「それしかないという言葉が、心の死角を照射する。正しさや潔白さに頼らない独自の結末が、有り難く美しい」――朝井リョウ氏(作家)

推薦コメントを読んでみても鮮烈で、自由で、オリジナルな恋愛小説であることを感じることができます。

私は読んで登場人物である二人の関係の行く末に初恋の時に感じた胸の高鳴りみたいな感情を終始感じていました。

恋愛の楽しさや悲しさ、その他感じる繊細な感情を心の隅から隅まで焼き付けてくれるような繊細な恋愛小説を紹介します。

簡単なあらすじ・説明

逢衣(あい)と彩夏(さいか)は、25歳の夏に出会い、そして恋に落ちます。

携帯電話ショップで働く逢衣と、芸能界で活躍する彩夏。

生きる環境が異なり、これまで互いに男性と交際していたふたりに、幸せに満ちた濃密な日々が始まります。

しかし、ある事件をきっかけに、状況は一変。

ふたりの関係の行く末を描いた物語です。

ここからネタバレ注意!

生のみ生のままでの感想(ネタバレ)

逢衣と彩夏、ふたりの関係の行く末

運命的な雷の場面が決定的な恋の生まれた瞬間です。

この出来事がなければ恋は生まれなかったかもしれない「あの日あの時」のタイミング。

小説の中でも「ラブ・ストーリーは突然に」の音楽がカラオケで歌われて、私自身、スマホで検索して流して物語が進むにつれてぴったりというか、その劇的で運命的な雰囲気が盛り上がりました。

下巻の同僚が歌って逢衣が号泣してしまったことが記されていた場面は辛かったですが。

逢衣と彩夏は違う一人一人なのですが、それでも惹かれ合う根っこの似たところがあります。

逢衣はもともとやんちゃでしたが成長するにつれて親の姿を見てきたことやスタンダードな生き方のほうが幸せになれるのでは想いから保守的になり夢をあきらめています。

そこに彩夏が現れ、芸能界でやりたいことに強い気持ちで取り組み、活躍する姿に惹かれていきます。

逢衣の幼少期のやんちゃな部分と物語の後半、30代以降の仕事に対する取組みの姿を見ていると彼女の根っこの枠にとらわれない獰猛さのようなものを感じて、それは物語の前半では彩夏に表立って表れていたものでした。

長いスパンで描かれている物語なので、逢衣が落ち込んでいる時に彩夏が助けたり、彩夏が落ち込んでいる時に逢衣が支えたりする時期もあります。

そしてふたりの気持ちの強さともふたりの性格とも言えますが好きな人を支えようという気持ちが強い。それが美しくて感動的ですらありました。ふたりの会話も深刻なものもあるのですが微笑ましいものも多いです。

同姓の恋愛という面が困難を生み出していて、作品としてもクローズアップされやすい部分だと思いますが、私としては女性同士だからこそ「好き」という気持ちがより繊細に描かれていて、物語に惹きつけられました。

最後まで読んで時間が経って変わらない気持ちや変わった気持ち、そして変化する二人の立ち位置が変わっても結びつきの強さの本質は変わらない関係が嬉しかったです。

文章、会話の美しさ・面白さについて

出だしの文章の、

青い日差しは肌を灼き、君の瞳も染め上げて、夜も昼にも滑らかな光沢を放つ。静かに呼吸するその肌は、息をのむほど美しく、私は触れることすらできなくて、自らの指をもてあます。

から「これからこんな文章の世界に入り込める」ことが嬉しくなりました。

からだを合わせるような場面もからだの細部をくわしく書かれていてそれが登場人物の気持ちに連動しているから美しく感じますし、緊張感や怖さ、喜びや湧きたつような想いが伝わってきます。

会話もシリアスな場面もあるのですが、20代と30代の会話共にどこか無邪気さが漂っていて微笑んでしまう面白さがあります。

年齢を重ねていっても変わらない関係性というか、私も昔の友人と久しぶりに会った時に「こういう感じで会話してた」と思い出すことが毎年のようにあります。

周りの状況や年齢によって変わってくる身体的な変化もある中で変わらないものがやはり美しく大切なものに感じられて、それを感じてこちらも嬉しいのです。

終わり方について

ふたりには親との関係や仕事との付き合い方とか色々な身の回りの変化があります。

逢衣の親のふたりを反対しつつも逢衣を大切に思う温かさを感じられた場面はよかったです。また仕事についてもふたり共、やりたいこととふたりの生活のバランスがうまく取れ始めてきていることを感じられてこれもよかった。

何より最後にふたりの結びつきが強まるような終わり方が嬉しかったです。

私は綿矢りささんの芸能界が登場する作品で『夢を与える』の印象がとても強くて、『夢を与える』も気持ちに残って読書を楽しむことはできた作品なのですが、この作品も同じような雰囲気の展開になるのではないかと怖かったのです。

特に逢衣、彩夏ふたりとも大好きになっていたので心のどこかでとても警戒していたと思います。

でも最後にふたりがふたりの未来を誓って明るく照らされていくような終わり方が待っていてほっとしたし、警戒していた反動か嬉しさが爆発しました。

だから余韻も強くてしばらく幸せ気分にいられました。

生のみ生のままでの感想まとめ

2人が惹かれ合う姿に小説の序盤から最後までずっとどきどきしていました。

とても純粋で真っ直ぐで、強くも弱くもなってしまうような2人の姿は綺麗です。

性別がどうではなくて、相手の喜びを自分の喜びに感じられるような2人が大好きで最後にかけて胸が一杯になりました。

相手の心に火を灯せば、幸せそうな笑顔が見られて、こちらも一緒に温かくなれる。

好きな人の笑顔を求める人間でいたいと思いました。

文章が綺麗で上下巻があっという間。2人の行く末が気になって空いた時間すぐ手にとって夢中の読書でした。

まだ余韻で一杯です。

ABOUT ME
いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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