住野よるさんの最新作です。
住野よるさんは『君の膵臓をたべたい』がベストセラーになり、その後も『よるのばけもの』や『青くて痛くて脆い』など人気作を連発している作家さんです。
『青くて痛くて脆い』はハイブリッド型総合書店「honto」が集計した「2018年二十歳が一番読んだ小説ランキング」でなんと、
1位!!!
若い世代に絶大な支持を集めている作家さん。
読書離れという言葉がさも当たり前のように話題として上がっている中で若者の支持を集める作家さんの魅力は大注目です!
そして、この装丁! 手に取りたくなるようなオシャレな装丁。
タイトルも『麦本三歩の好きなもの』。個性あるわー笑
読まず嫌いではいられない、そう思って手に取りました。
あらすじ
図書館勤務の20代女子、麦本三歩のなにげなく愛おしい日々を描いた日常小説です。
麦本三歩はぼうっとしていて、食べ過ぎでおっちょこちょい、間抜けという他者評価です。
彼女の周りはそんな三歩にそれぞれの距離感で接していて三歩も周りの人たちに素直で自分らしく接していきます。
穏やかな日常というよりは麦本三歩の個性の彩りが眩しくて何でもない日常が特別に感じられるような小説です。
ここからネタバレ注意。
麦本三歩の好きなものの感想(ネタバレ)
麦本三歩の魅力
三歩はおっちょこちょいでは済まされないくらいの頻度で仕事上ミスをしてよく怒られています。
そして時々「げふっ」、「ぐふっ」、「うふー」とか個性というか、
変というか、
そんな返答もたくさんあります。
そして食べることには相当の情熱を持っていて、ブルボン好きで、朝の布団の恋しさも「チーズ蒸しパン」が準備されていれば乗り越えられるような並々ならぬものがあります。
実際にこう特徴を羅列して、実際に身近に三歩のような人がいたらと想像するとちょっと好きになれないです。
でもそれはあくまで三歩の一面にしか過ぎないことが本を読み進めていく内に分かってきて、結論から言うと、私自身も三歩のような感覚で日常を過ごすことは素敵だなーとまで思うようになっていました。
特に三歩の魅力にメロメロ(死語?)になった場面があって、それは「麦本散歩はファンサービスが好き」の一場面です。
親友と旅行にきていて、親友のスマホの画面に先生の名前が表示された場面。
(親友は天才と称される小説家の恐らく担当編集者の仕事をしている)
先生から親友にメールが届いただけだが、親友が寝ている横で三歩は祈るように先生の名前が表示されたスマホに話しかけます。
「あのですね、この子は、あなたのことが大好きなんです。喧嘩もするし、イラっとすることもお互いにあるかも。でも、先生もこの子のことが大好きになると思います。天才と呼ばれるあなたはきっと、私が全部は共感してあげられない、この子の心の、かけらみたいなものを理解してあげられる人です。だからどうか、この子のこと、よろしくお願いします。この子の親友からのお願いです」
本心から親友を想っているということがセリフから伝わってきて感動しました。
お酒に酔っていたからできた行動なのかもしれませんが、でも、行動がどうあれ、友達を心底大切に想える人間だからこそ、普段の生活の中でそういう真っすぐさが伝わってくるからこそ、彼女の変な部分は好意的に感じられるようになるのだと私は思います。
このセリフだけではなくて、三歩が大切にしている周りの知人友人に対して時々真剣に言葉を返します。
それはどれも淀みのない言葉で、普段噛んでばかりで時にはずるがしこい素振りが嘘のように真っすぐです。
時にはずるがしこさがあるって私達も一緒ですよね。
でも私は三歩よりも要領よく誤魔化して生きているのかも。
だから三歩が実際にいたとして三歩に容量いい生き方を教えるよりも、私が三歩のような真っすぐさを見習えと読んでいて感じました。
三歩の周りの人たち
三歩の周りで登場する人たちにはそれぞれ違った雰囲気を持っています。
友人もそうですが何といっても職場の人でしょう。
- 怖い先輩
- 優しい先輩
- おかしな先輩
物語が三人称でありながら三歩に近い視点で進んでいくので先輩方も名前は登場せず、三歩のこっそりつけているあだ名呼びで話は進みます。
どこの話にもこの三人の先輩は度々登場してきますが、三人共、三歩を三歩として接してくれるいい先輩です。
三歩を三歩としてというのは三歩のことを好き嫌い関係なく、三歩をよく見ているということです。
とても個人的な経験ですが、仕事上ミスが多くておっちょこちょいがかさんでくると先輩方の無関心度が高まっていくように思えます。
そして無関心で接せられる方は酸素がなくなったように苦しくなりやがて仕事は辞めてしまいます。
何度かそういうケースを目の当たりにしたことがあります。
でもこの三歩の先輩方は三歩に関心があり、好きでなかったとして三歩は三歩として接して時には気持ちをぶつけてくれます。
そんな環境下だからこそ、三歩の日常の物語がまた彩られて、私達読者にとっても面白く読めるポイントだと思います。
特に「怖い先輩」のよく三歩を叱りつつも気になって仕方がなくてかまってしまうような好意が微笑ましくて読んでいて楽しかったです。
麦本三歩は今日が好き
最後の短い話で物語は締めくくられています。
温かい布団を恋しく思いながらも「チーズ蒸しパン」の力で目覚め、チラシのプリン値引きの情報などささやかなものから一日の楽しみを増やしていきます。
三歩は楽しみを見つける天才なのだと思います。
日々は「大したことも起こらない」し「謎も事件ファンタジーもない」です。
三歩はこう願います。
出来ればどうか自分も、嫌いなもののことじゃなく、好きなものの話をしていたいと三歩は願う。
三歩はどこにでもいる大人と書かれながらも、三歩のようなアンテナを大切にできているかどうか考えて、本を閉じた瞬間に少し楽しみの感度が上がったような気がしました。
終わりに
冒頭で20歳の人たちに一番読まれた作品として住野よるさんの作品を上げましたが、こういう話を書く作家さんが人気出ることは嬉しいです。
ちょっと砕けた文章が多くて、例えば近代文学作品が好きだという人には受け入れられないかもしれませんが、結局のところ、読んだ後に何かを感じてそれの心地よさがあって読書をすることには変わりありませんよね。
読んでよかったと思える一冊です。
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