ページをめくる楽しさを実感できる一冊!
伊坂幸太郎さんの最新連作短編です。
福島県の猪苗代湖を会場とした、音楽とアートのイベント「オハラ⭐︎ブレイク」で配布された小冊子の短編小説です。2015年に配布された「一年目」から2021年秋までの「七年目」とおまけ「七年目から半年後」の七作プラスαのような内容となっています。
ワクワクドキドキが詰まっていて、それぞれの短編を読み終えると幸せな気分にさせられるそんな作品を紹介します。
あらすじ
連作短編集。
失恋したばかりの社会人と、元いじめられっ子のスパイ。それぞれの短編には2つの世界軸の物語が並行して進みます。
2つの物語はそれぞれの短編で交錯し、新しい読み応えのドキドキと優しさを運んできます。
優しさと驚きで満ちたエンターテイメント小説です。
ここからネタバレ注意!
マイクロスパイ・アンサンブルの感想(ネタバレあり)
2つのミッション
○年目と銘打たれたそれぞれの短編には2つの世界が並行して進行します。
短い場面がスパスパとテンポよく切り替わり進行していく様はとても読みやすくそしてワクワクさせてくれます。
2つの世界はまるで違った世界です。ハードボイルドめのスパイの世界と私たちの現実寄りの社会人ヒューマンドラマ的な世界。
でも共通する音楽があり、どこか似た雰囲気があります。
はっきりとわからないけれど分行きの似た、でも味の違った世界にはそれぞれのミッションがあって進行するのですが、その2つの世界が交錯した瞬間に「面白い!」が胸に沸き起こります。
独特の伏線回収と小気味いいテンポは伊坂幸太郎さんの小説を読む醍醐味であり、存分に詰め込まれている小説でした。
連なっていく物語
元々は年に一度のイベント配布の小説です。
だから勿論一作一作で面白さが味わえるものなのですが、その短編が毎年内容もつながっていって、主人公たちも一年ごと歳を取っていきます。
なんて面白い試みなのだろう。そしてイベント自体も今回、この作品を読んで調べましたが素敵なイベント。
磐梯山と猪苗代湖に包まれたロケーションで様々な文化を味わえる「大人の文化祭」!
小説感想記事なのでここまでにしますが公式ページを観ながらとても興味深い。行きたい。
そして配布され、毎年成長する本物語。一年目、二年目、三年目と読み進めるうちに彼らの幸せを願う気持ちになり、大きな括りでの本書の楽しさを感じます。
リンクする御伽噺
大きなネタバレになるので深くは書きません。
でも、始めの場面「昔話をする女」から最後まで読み終わるとそれぞれの世界の仕組みを知るような御伽噺的な要素を感じることができます。
途中で昆虫の乗り物が出てきたり、不思議な世界だと思っていたものの輪郭がはっきりしてきます。
読めば読むほど色んな楽しみ方ができる小説だと思います。
だから一度読み終わった後、すぐに頭から振り返ってなるほどなぁと驚きました。
七年かけてできた連作短編集の驚きの仕組みです。
まとめ感想
優しくて味のある人物が多く出てきて、個人的には門倉課長が好みです。
何事にも自分のおかげだと思わず謙虚な人間。社会の中では評価もされないのだけど主人公をはじめその魅力を感じている人はいます。
こんな人間にはなれないけれど、憧れます。
この小説の読後感は優しくて幸せになれるという気持ちで一杯でした。
違う世界の誰かの幸せを願う登場人物たちの想いが胸に届きます。きっとイベントに参加した人は音楽を中心として様々な文化に触れてなおそんな温かい気持ちが浮かんだのだろうと思います。
素敵な試みであり、イベントのみで配布される予定だった本作を書籍化してくれて本当にありがたいです。
終わりに
驚きと優しさをこんなにも読みやすい形で届けてくれる伊坂幸太郎さんの作品は大好きです。
今まで活字を読まなかった人にもおすすめできて、読めばきっと今まで小説作品に固いイメージを持っていた人も「小説って面白いな」と印象を変えてくれるのではないかと思います。
エンターテイメント小説として大・おすすめの一作でした。
同じく伊坂幸太郎さんの短編集としてこちらも大・おすすめ!