どんな小説なのか?
帯に書かれた推薦コメントを2つだけ紹介します。
どうしても言いたいことがある! あふれる文才!
これこそが小説というものが生まれるとき。私もこんな澄んだ気持ちで最期をむかえたい。
――吉本ばなな(作家)
この物語は、ともすれば見落とされてしまいそうな日常の瞬間を鮮やかに際立たせてくれた。ありがとう。
――又吉直樹(芸人)
手に取りたくなりませんか?
著者はマヒトゥ・ザ・ピーポー。
今年の夏、フジロックフェスティバルでメインステージ出演が決まっている人気バンドGEZANのボーカルです。
始めに作家としても活躍しているお二人の推薦コメントを載せたのは素敵な小説だと伝えたかったからです。音楽ファンのみならず、小説ファンも魅了する力を持つ作品だと伝えたかったからです。
あらすじ
海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長い間新曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責めるシングルマザーのましろ。そしてましろの娘のいろは。
ある「通達」があります。
「通達」によって登場人物の気持ちや価値観は変わっていき、それぞれの視点で描かれる世界は少しずつ交差していきます。
孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語です。
ここからネタバレ注意
銀河で一番静かな革命の感想
登場人物の魅力
本作品に登場する人物は皆、立場は違います。
ゆうきは光太のバンドのファンだし、ゆうきはいろはに英語を教える立場で登場することもあります。その他も小さな部分かもしれませんが違った立場での関わる場面は多くあります。
それでもそれぞれ違う人物の感性というか感覚が似ているように思いました。
そしてその似ている感覚(感受性と言ってもいいかも)で綴られる想いとか発言が普段私が生活している中で見落としているような日常的な物事に色を付けて気が付かせてくれるようなものばかりなのです。
きっと著者の言葉の選択も独特でお洒落というか斬新というのもあると思います。
ただそれだけでもなくて、終末に向けての雰囲気が漂っているからこそ、なんか登場人物のセンチメンタルになりそうな言葉の選択が合っています。
普通色々な人物の視点があってそれぞれが関わり合うような物語だと好きな人物と嫌いな人物が分かれてしまうのですが、全員同じくらい好きでした。
切り取られた世界観
終末が舞台の物語はつい「自分だったら」と考えてしまいます。
片手で数えられるくらいの日数で世界が終わるとしたら何をしますか?
終わりを想像して初めて自分自身の価値観に気づけることもあるのかもしれません。
登場人物が「自分らしく」という言葉に気づいていく流れを読んでいて確かにその通りだと思いました。
そしてその「自分らしく」というのは当然それぞれ違ってこの小説の各登場人物最後の行動は何気ないのに感慨深いものがありました。
特にましろといろはの最後の会話は胸に染み入る想いでした。
「はい。もう寝なさい。」
「うん。」
「おやすみ。」
「おやすみ。ましろ。すきだよー。」
「うん。わたしもよ。」
「うん、知ってる。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
「うん。おやすみー。」
「おやすみ。」
それまでの物語があってこその会話だと思います。でもこの会話、読めば読むほど胸苦しくなります。
何気ないのだけど、素敵です。
銀河で一番静かな革命の感想・まとめ
細かくついた小見出しはどういう意味なのだろうと考えながら読んでいました。
小見出し自体が詩のようなインパクトある言葉で物語にも深いところで関わりある言葉と思って自分自身勝手にそれぞれの場面に紐づけしていました。
それはそれで読書が面白かったのですが、最後のましろといろはの「贈り物ごっこ」でより深く結びついて、少し抽象的に世界観を楽しんでいた物語がすとんと腹に落ちた気分がしました。
贈り物として上げられた言葉は二人の会話の通り「贈り物」なのか分からないような言葉だけどその言葉遊びで投げ合われる一つ一つの積み重ねが何気なくて素敵でした。
きっと日常には気づいていないだけで贈り物のような素敵なことで溢れているのでしょうね。
読後感は切なさがありながらも少し視野が広がったような気持ちがして心地よいものでした。
銀河で一番静かな革命を読み終えて感じた〇〇
ふとした日常から何かを拾える感覚というのがすごいと思いました。
心のひだが細かいというか、思い出にならないと感じることができないような日常の魅力を普段から感じ取って表すことができるのは訓練か才能か分かりませんが、そういう作品を読めて幸せだなぁと感じています。
たくさん広がればいいのにな。