2022年本屋大賞受賞作品!
昨年11月に発売してから話題になり続け、4月時点で第19版!
著者の逢坂冬馬さんは本書でデビューということで本当に驚きました。
帯の三浦しをんさんの紹介文、
戦争は女の顔はもちろんのこと、男を含めたあらゆる性別の顔もしておらず、つまり人間の顔をしていないのだという事実を物語ろうとする、その志の高さに感服した
なかなかに重い物語を想像したのですが、それ以上に読み手を次へと促す推進力が強く、あっという間に読了しました。
もうすでに今年のベスト読書の候補に入るであろう『同志少女よ、敵を撃て』を紹介します。
あらすじ
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われます。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されてしまいます。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われます。「戦いたいか、死にたいか」そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意します。
同じような境遇で家族を失い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちと共に訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラード前線へと向かいます。
おびただしい死の果てに、彼女は何を考えるのか。真の敵とは何なのか。
ここからネタバレ注意!
同志少女よ、敵を撃ての感想(ネタバレあり)
戦争における各々の立ち位置
女性小隊に配属された面々は生まれ育ちが違ってそれぞれの闘う理由は異なります。
その中でもオリガに言葉で私はこの小説をまさに今読むべき小説だと思いました。
ロシア・ウクライナ問題が毎日のようにニュースで耳に届く中、序盤でウクライナから来たというオリガの言葉は物語の流れ以上に注目させられました。
「ロシアとウクライナをまとめて奴隷にしようとするドイツに支配されていれば、ウクライナは奴隷でしかあり得ない。『ナチスとともにソ連を倒す』ことはできない。けれど『ソ連とともにナチスを打倒する』ことはできる。赤軍の中でウクライナを勝利に導き、コサックの誇りを取り戻すことはできる。ソ連の一部であるかぎり、そのなかでウクライナは強大化する。ドイツとソ連は、理念が違う。ソ連が自らを称賛する限り、ソヴィエト・ウクライナを否定することはできない。そしてそのなかで、コサックは再び栄光を取り戻す」
単純にウクライナの事情をオリガの言葉でわかった気になるのは違うとは思いますが、その歴史的背景が複雑であることは伝わってきます。
今、ニュースで流れるロシア、ウクライナそれぞれ発信される内容が私の中で重みを持つのを感じました。
オリガだけではありません。シャルロッタ、アヤ、マーヤ、それぞれに闘う理由があり、理想があります。
戦いたいのか。違います。戦わざるを得ない中、周りの死の連続で理由がさらに強固なものになっていきます。負の連鎖の中で彼女たちの内面も変化していき、それは物語の見どころです。
殺すことが承認されるという世界
なかなか物騒な小見出しになりましたが、作中、何人フリッツを殺したことを誇る姿も描かれます。
セラフィマも戦いから帰ってきて倒したことに興奮する姿があり、それは一つの苦悩にもなっていきます。
彼女たちの闘う先に何があるのか。
戦争はそれまで育んできた人としてのあらゆる表情を失わせていく姿が物語られます。
例え小説だとしても、セラフィマが戦果を上げることに喜びに近いものを感じる私も異様な気がしました。それくらいに迫真の描写が積み重ねられていきます。
物語の後半で会話する女性狙撃兵として最も殺し、象徴にして頂点であるリュドミラの言葉は、静かな迫力と、セラフィマたちに感情移入しようとしている私からすると恐怖を感じました。
戦後の彼女たち
さてセラフィマたちは闘う先、つまり戦後、どのように生きていくのでしょうか。
ここまで読むと、もう彼女たちの幸せを願うしかないくらい、物語は自分の中に積み上げられているのだけど、深く書きませんが展開には驚き、嬉しくもなりました。
セラフィマとイリーナの関係の変化は2人の背負っているものとそれに対する内面の変化をよく表していると思います。
私が感じる面白い小説というのは、物語の終盤に差し掛かるとどんな展開でも気分が上下し、ややオーバーに思えるほど喜んだり泣いたりできてしまう状態になってしまう小説です。
登場人物に散々入り込んだ感覚で夢中になっているという意味ですが、まさに本作を読んで些細な挙動で涙してしまいそうになるような感覚にさせられました。
終わりに
前段からの続きになりますが、本作のような小説が広く読まれて、小説でしか味わえない重厚な感情の起伏を楽しんでほしいと思います。
正直に言うと、あらすじから物語が重く感じられてしばらく読むのを敬遠してきました。私生活もコロナになったり、仕事のごたごたがあってあまり明るくなれなかったこともあります。
でも、今読んで思うのは最高の気分転換になったなぁということです。
特に中盤以降はほぼ一気読みだったので、長めの小説ではありますが、あっという間に読めてしまう力があるので強力におススメします!