村田沙耶香さんの最新短編&エッセイ集です。
表題作の「信仰」は2021年シャーリー・ジャクソン賞にノミネートされています。
村田沙耶香さんは2016年に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、そしてミリオンセラーになりました。さらに『コンビニ人間』は現在38の国と地域で翻訳されています。また2020年には『地球星人』、2022年には『生命式』の英訳が刊行されるなど世界で注目されている作家さんと言えます。
私も『コンビニ人間』で村田沙耶香作品に出会い、それから店頭に新刊が並んでいたら手に取ってしまいます。
不思議な引力のある作品。そして新しい価値観を自分に与えてくれる作品ばかりです。
本作『信仰』もサクッと読み終えてしまえる短編が詰まっているのですが中身は濃厚、読み終えてくらくらです。
Contents
『信仰』の作品説明・簡単なあらすじ
「信仰」……「現実」を愛する主人公の永岡が、同級生の石毛からカルト商法に誘われるところから始まる表題作「信仰」。永岡は同じく同級生だった斉川を教祖に仕立てようとする石毛の悪巧みを止めようとしますが思わぬ展開に。
「生存」……65歳時点の生存率が生活のあらゆる指標になった日本。その中でランク「C」の私は、とうとう野人になろうと決めます。
「土脉潤起」……野人になった姉と、友達と三人で暮らす妹。妹は人工授精で三人の子どもを産む決断をし、姉に会いに行きます。
「彼らの惑星へと帰っていくこと」……「私」と「イマジナリー宇宙人」のAさんの関係を書いたエッセイです。
「カルチャーショック」……価値がほぼ統一された「均一」という街に住む少年が真逆のような価値世界の「カルチャーショック」という街の老婆に出逢います。
「気持ちよさという罪」……「多様性」という言葉についてのエッセイ。
「書かなかった小説」……ルンバくらいの便利さ、という言葉に後押しされて私は自分のクローンを4体購入します。
「最後の展覧会」……1億年の旅の最後にたどり着いた星で、Kはロボットと2人で「テンランカイ」を開くことになります。
信じることの危うさと切実さに痺れる8編の短編・エッセイが収録されています。
ここからネタバレ注意!
『信仰』の感想(ネタバレあり)
「信仰」の感想
世の中にはたくさんの勧誘に満ちていて、カルトではなくても他人から見て「?」がつきそうな勧誘を信じてしまったことは私にもあります。
社会人になりたてで入った会社に完全に頭が入り込んでしまって所長を神様のように思っていた時期もありました。
だからそんなイメージで「信仰」を読んでいってなんとなくの親近感で登場人物の言葉に頷きながら読み進めていったのですが。
最後はやはり衝撃でした。
いきなり登場人物の熱量がマックスになり、切実な想いで違う世界へと飛ばされたような展開に。
でも、最後の魂の叫びはなんか面白くて笑ってしまった。
「生存」の感想
学歴や職歴、豊かさなどをもとに生存率を数値化し、その数値で命のリスクを具体的に表される世界は初見恐ろしく感じてしまいます。
でも実際のこの世界だって公に顕在化されていないだけで身近にあることですよね。
人それぞれ色々な物差しで他人を見ていると思いきや、実はそれは結構統一化されていて、そこに潜む問題は社会問題なのかもしれない。
だからある意味で「生存」の世界はとても現実的な私の身の回りの世界と同じように感じて読んでいました。
「土脉潤起」の感想
野人になった姉と、友達三人で暮らす妹。この4人はそれぞれにストーリーがあって、会話など関係性が面白く読めました。
優秀だったけど野人になった姉。友達との子どもを産もうと決めた妹。
姉と最後の女の子が出す「ぽう」にはどんな意味があるのだろうか。
でも色んな関係がある中で自分の元の元のようなところから出た声のように私は感じました。
「彼らの惑星へ帰っていくこと」の感想
これは読み終えてエッセイだとは思わなかった。どういうことなのだろうと考えていたところでエッセイだと知って、逆にストンと胸の中に落ちて納得出来ました。
「イマジナリーフレンド」は私にもいます。私も何かを書く時とか、ふと瞬間にその存在を感じ、いつも助けられている、助けられてきた感覚になります。このエッセイの「イマジナリー」とは少し意味が違うのかもしれないけれど。そして言語化がすごく難しいのだけど。
「カルチャーショック」の感想
「圴一」と「カルチャーショック」が対比的に描かれていて、わかりやすく二つの価値観を感じることが出来ました。
僕の音と老婆の音が、波の中で重なっていた。
終わり方、とても好きです。短い話だけどとても印象深い。
「気持ち良さという罪」の感想
「多様性」という言葉についてのエッセイ。
このエッセイだけではなく、ここで語られた村田さんの言葉は『信仰』に通じるテーマのように感じました。
村田さんの祈りや願いがきっと真摯に言語化されていて、他人へのラベリングという意味ではとても自分自身痛い言葉もありました。
「書かなかった小説」の感想
私の中では小説として1番面白く読めた作品です。
話の展開は意外で「こうなるのか」と感嘆でした。
笑える会話も多くて、初めにクローンを「ルンバくらいの便利さ」と表現するのに笑ってしまったし、ぎゅうぎゅう詰めで生活する夏子たちを想像すると笑えてしまう。
もっとたくさんの「シーン」を見てみたいです。
「最後の展覧会」の感想
まだまだ終わらないテンランカイ。素敵です。
元は美術品のコレクターとして有名な松方幸次郎さんとカール・エルンスト・オストハウスさんの架空の出会いを書いてほしいという依頼から始まったお話だそうですね。
松方さんは原田マハさんの小説で描かれていたのと美術展に1度行ったことがありました。でも読み終えるまでまるで気づきませんでした。
マツカタロボットと宇宙人・カール。
この作品の締めにふさわしい素敵な作品でした。
終わりに
一気に感想を書きましたが、どれもしっかり記憶に定着していて驚きました。それくらいインパクトのある作品たちだったのだと思います。
サクサク読めて、しかもまるで退屈しない(笑)
毎日1作品ずつ読んでいたのですが、疲れている時でも読むのが楽しみになって毎日を過ごすことが出来ました。