小説

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』【本屋大賞ノミネート作品。強くて、少し不思議な双子の絆の物語】

本屋大賞ノミネート作品です!

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昨年11月に発売された伊坂幸太郎さんの一年ぶりの新作。

私はInstagramで読書感想アカウントを持っているのですが伊坂幸太郎さんは最も反応が多い作家さんの一人です。

たくさん映画化もされていますし音楽アーティストの斉藤和義さんと『アイネクライネナハトムジーク』や『フィッシュストーリー』で音楽的な絡みを見せるなど、今まで読書と関わりがない層が興味を持つパイオニアのような存在だと私は勝手に思っています。

作品によって色んな色があるので魅力は一言では表せません。

この『フーガはユーガ』はあっと驚くような鋭い伏線に、冗談みたいなわくわくする会話、そしてしみじみと登場人物について考えてしまうような深さのある作品で一年ぶりに「やっぱり伊坂さんの小説面白い」と嬉しくなってしまう作品でした。

あらすじ

常磐優我はファミレスで1人の男に語り出します。

双子の弟の風我のこと、父親からの虐待を中心に幸せではなかった子供時代のこと、そして彼ら兄弟だけに備わった特別な力のことをです。

風我と優我のルーツから現在に繋がっていく不思議で切ない物語です。

語られる1つ1つの話はユーモアがあって独特のセンスがあって短い場面ばかりなんですけど読みたい読みたいとページを捲らさせます。

現在へと話が繋がった時の驚きと納得とさらにページを勧めていきたい衝動は、ただの「不思議な話」や「重い過去を持った兄弟の話」ではなく、本の魅力を存分に伝えてくれる力となってラストシーンへと運んでくれます。

ここからネタバレ注意。

フーガはユーガの感想(ネタバレ)

次々に読んでいると頭の中のテーブルにたくさんの風我と優我の話が広げられていて2人が何に怒りを覚えてどんなことが好きなのかまで2人の人間性にどっぷり浸かっていました。

それでいてその広げられた物語が実は1つの方向に結びついていくところは話としてもぞくぞくしてしまいます。

あんまりこの作家にはこういう特徴があるとか書きたくないですが、伊坂幸太郎さんの話はスリリングで面白い。

この作品は加えて根底に不思議さと辛さと切なさも流れています。

不思議さは勿論二人に備わった力のことです。

誕生日と瞬間移動を掛け合わせるという発想はどこから来るのだろう。

でも似ている双子がいつの間にか入れ替わっていたらなんて考えたら面白い出来事しか想像できません。入れ替わる度にはらはらどきどきが生まれる。

辛さは虐待される親との絡みです。

風我も優我も自分達のことを「虐待のベテラン経験者」と語るほどの過去の描写はやはり辛い。

頻繁に息子たちに怒鳴り散らして暴力をふるう父と父親にいいなりでただため息をつくだけの母。

出口や解決策の見えないただの苦しい道のりはどれだけ風我や優我が強く生きているのだとしても重いです。

それが会話の節々ににじみ出ています。

ただ辛いことを共有できる兄弟がいるからこその絆深さなのでしょう。

例えば、意図的に親友を作ろうと思っても名前ばかりでなかなか心を許せる親友はできませんが、もしどうにもできない苦しい事柄が降ってきてそれを共有したとするならば、その絆は強く太くなっていて何年後かに結婚式とかで友人代表挨拶でもしているのかもしれない。

部活仲間とか、職場の同期とか、わりと分かりやすいですが、少なくても壮絶な過去を共有してきた双子の兄弟の絆は何よりもと言っても言い過ぎではないほど強いのは容易に想像できます。

だから2人で2つの人生を共有しているかのような強くて心強い絆もあれば、トラウマのように残る消したくても消せない繋がりもあります。

根底にこの苦しさが流れているから不思議な能力の話もただ軽い超能力の話として捉えられず、能力の行く末を真剣に見守ってしまいます。

切なさはラストシーンです。

悪があって解決したのに自分の分身はいない。残るのは誕生日の度に訪れて気にしてきた習慣は今になっても残っています。

ハルタくんとハルコさんのことは話が現在に戻ってからもすっきりしないまま残っていたので話のほとんどが終わりで着地して、そのアリの巣みたいな物語の筋が最後でまとまっていくのは面白さとは別に感心というかすごいなぁと感じました。

そしてところどころのユーモアが笑ってしまいます。私が笑ってしまうのはワタボコリです。このネーミングセンス。

名前だけでも呼ばれる度に面白いのに、終盤の高杉の家で突入したワタボコリを見て、

「何なの、おまえは。どこから来たんだよ」

という高杉の姿がくすっと笑ってしまいました。

細かいユーモアに溢れた登場人物や会話ばかりでした。

そして嫌悪してしまうような悪に向かうヒーローの物語は設定の不思議さとユーモアによって誰かに語りたくなるような面白さを感じさせてくれました。

終わりに

この作品で描かれたのは温かい絆などない親子の姿です。

親子や兄弟など色んな形がありますよね。単純に血が繋がっているからといって大切に思うわけでもない。

うちは一昨年両親が熟年離婚して今は家族5人が1人暮らしという不思議な形になっています。
でもそれぞれ個々に会うような時も増えたし、集まることもあります。父と母は今年に入って2人でジュリーのコンサートに行ったそうでそれ聞いて離婚してからの方が仲良いじゃんと笑っちゃいました。

色々ですね。

物語にも色々あって作家によって色々な形の物語に触れることができるのが嬉しいです。

特に今までの好きな作家に囚われず最近は読むようにしているのでその驚きと感じるまた違った面白さで読書欲がさらに高まります。

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一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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