私の中で羽田圭介さんは一番、顔が浮かんでくる作家です。
テレビなどの露出も多いですし、高身長でしっかりした顔つきも覚えやすく、ギャラなどお金に関しての物言いなどが話題になりやすいという点もあります。(ふとテレビをつけたら羽田圭介が出ていてバス旅をしていて驚いたことがあります。乾杯でジョッキビールを飲み干していた笑)
書く小説も話題になりやすい作家です。この『スクラップ・アンド・ビルド』も勿論、生々しい介護する者の心情が描かれた小説として話題になりました。
他にも『成功者K』という小説を執筆されていてこれは「芥川賞を受賞したKがいきなりテレビに出まくり寄ってくるファンや友人女性と次々性交する」という話でなんていうかインパクト大ですよね。
この第153回芥川賞はピースの又吉直樹さんの『火花』が話題となり特別注目された回でした。人によっては同時受賞となった羽田圭介さんは陰に隠れてしまったという見方する方もいます。
ただ結局のところ羽田圭介さんの個性は陰に隠れるレベルのものではなく、作家としてひと際目立つ存在になっています。
それはテレビ等の露出効果もあるのでしょうが、作品の力でしょう。
実は羽田圭介さんは『走ル』、『ミート・ザ・ビート』、『メタモルフォシス』とそれまで何度も芥川賞候補作を出しています。
当然、候補作に上がり続ける作品を書き続けるというのはすごいことです(受賞に至らなかった作品は選考委員になんやかんやマイナスの批評を受けてしまうのは私から見て悲しいけれど)。
議論に上がるような作品を書き続けるのはすごい!
そしてこの『スクラップ・アンド・ビルド』がついに受賞に至った作品です。
『火花』が話題になり過ぎた感はありますが、歴代の芥川賞の中でも間違いなく人々の記憶に残る回での受賞は「持っている」とも言えます。
そして一度作品を手に取ってさえすれば強烈に印象を残してくれる今作品を紹介します。
Contents
あらすじ
祖父との共同生活を描いた話です。
早く死にたいと口癖のように祖父は言います。孫の健斗は祖父の願いを叶えたいと思いある計画を思いつきます。
衰えていく生の隣で、健斗はストイックに徹底的に自らの肉体を鍛え生活を再構築するべく転職活動に臨みます。
閉塞感の中に可笑しさが漂う新しい家族小説です。
ここからネタバレ注意。
スクラップ・アンド・ビルドの感想(ネタバレあり)
実際にありそうな生々しい話でした。
あらすじだけ聞くと重いですが可笑しく思ってしまう文章が多くてすっと読むことができました。
健斗は死や介護について自分なりに考えて楽に死なせるための介護を行います。
それは悪っぽくなくて、逆に手を尽くしてあげるような介護です。
祖父自身、気分が良くなるような行為でもあります。
ただできることまでやってあげるということは肉体の機能的にマイナスになっていきます。
側から見ても祖父から見ても親切に映る行為ですが命としては削るような行為です。
逆は厳しくしてでもできることはやらせるという介護です。
厳しさを受けて苦しむこともあるし惨めな表情になることもありますが肉体の機能的には衰えづらくなり生に繋がります。
どちらがいいのかというのは議論の余地があると思います。
何がいいのか答えを出そうという話ではなくて、そういうことが当たり前にあるということをこの小説を読んでひしひしと感じました。
また祖父は死を求める発言をしつつ、健斗の見ていないところで生を楽しむような行動もあります。
でもそれって祖父が単純に悪いというわけではなくてとても自然なことだとも思いました。
実際に介護者も被介護者も人や気分によって態度も違うし言葉も違う。
本音なんてどこにあるのかわからない。
とてもリアルにこの話を感じた理由でもあります。
私はこの小説の健斗が面白かったです。
理屈臭くて祖父の姿を見ているからかもしれませんが肉体の機能的なものに執着しています。
精神的にも肉体的にも追い込むために筋トレをし、性機能を衰えさせないようにする努力(?)までもします。
健斗が主体の小説なので、その内面がぶっちゃけててというかあけっぴろげというか、要は正直な心理描写でおかしく読めました。
終わりに
私は知的障害者の支援施設で介護に関わる仕事をしていますが、勿論、施設の中には老人もいます。
細かい内容は置いておいて、私の中で介護の仕事で大事なことは利用者に興味を持つことだと思っています。
無関心な介護が成り立つのであればその仕事はロボットに変わっていくべきだと思うし、よく問題となっている待遇も改善はされないでしょう。
利用者に関心を持つ支援員が人から敬遠されやすい下の世話なども含めて仕事に当たるから価値が高まるのだと思います。
そういう意味で健斗はとことん祖父に興味を持って生活をしているので、健斗の物語に興味を持って惹きつけられました。
個性のある人物の話は好きです。
そして色んな価値観に触れて、その中から自分の価値観に少し混じるというか影響を感じる瞬間が好きです。
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