高山羽根子さんの『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』が第161回芥川賞候補になりました!
実は高山羽根子さんの前作で今回紹介する『居た場所』は第160回芥川賞候補でした。
連続での候補作。すごい!
講評での選考委員のコメント、
「わずかずつ世界を現実からずらして、異化する技術は総じて高かった」
どんな技術なのだろうと私はこの本を手に取りました。
そしてしっかりその技術から織り成す雰囲気に飲み込まれました。
『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』は文芸誌には発表されていますが書籍化は7月のようです。
その前にまず人を飲み込む個性を持つこの作品はどうかと思い紹介します。
Contents
あらすじ
舞台は大まかに三か所で「私」の住む街(日本)、「私」の妻となった「小翠(シャオツイ)」の生まれた街(恐らく中国)、生まれた街から出て初めて一人暮らしをした街(恐らくマカオか香港)の三か所です。
小翠が突然、「初めてひとりで暮らした場所に、もう一度、行きたい」と言い出し物語は始まります。
私と妻の小翠(シャオツイ)が地図に表示されない、かつて小翠が一人暮らしした場所を旅する物語です。
居た場所の感想
ただの旅物語ではなく、彼女の奇妙にも感じる存在の不確かさが話全体に通っています。
「私」はパートナーである小翠のルーツや知らない表情を知りたいという願望がある一人の男です。
この気持ちはよくわかって、特に妻の小翠は異国で生まれ育っていて、夫と言えども結婚してから見せる顔が彼女の全てとは思えないでしょう。
だから彼女が急に「初めてのひとりで暮らした場所に、もう一度、行きたい」と言った時に付いていきたいと思った気持ちはよくわかりました。
小翠についても地図に表示されておらず不確かなかつて居た場所に拘る気持ちもよくわかります。小翠は謎が多いですが健気で魅力的です。
二人の掛け合いも面白くて前半楽しく読み進めることができました。
読んでいて、その人のルーツって実は思っている以上に大切なのかもしれないと思いました。
小翠のかつて居た場所も地図上の表記がなくなる理由は断言されていませんが、時間が経っての取り囲む環境の変化が原因でその場所に拘りたくなるような寂しさみたいな感情に同調しながら読みました。
こうやって書くとノスタルジー溢れる情緒深い話のようですが、実は違います。
後半から奇妙な出来事が掛け合わされていって、不気味。強烈。
そして読後考え込み、もやもや笑
すごい!
行間からたっぷり雰囲気漂って、考えれば考えるほど読み方がたくさん分かれる小説だと思います。
私は上記した気持ちを奇妙な雰囲気と一緒に妙に印象付けられて読み終えました。
文章が力強くて一気読みでした。
読んだ人に感想を聞いてみればすっきりしないという人もいるでしょうし、最後まで退屈しなくてよかったという人もいると思います。
賛否両論あって好き嫌いがはっきり分かれるくらい尖った小説です。
読者に印象付ける力が大変強い作品。
読み終わってしばらく私はこの作品に囚われていました。
居た場所を読んで感じた個人的〇〇
私が読みながら頭に浮かんでいたのは私の中学のことで、私の時代には一学年5クラスあった学級が全校で4学級となり3月に閉校になりました。
ありふれた話だとは思いますが、自分と寄り添っていた環境は時間と共に必ず変化することを強く感じました。
卒業してから数える程しか近くを通ってないのになくなるって知ると感慨深くてなんでこんな寂しくてやるせないような気持ちになるかなって不思議に思います。
自分のルーツの大切さを感じました。
小翠は行動は最後は奇妙で私は混乱してしまいましたが、それでも途中途中ルーツを大事にする気持ちに共感して好きな登場人物でした。
まだ書籍としては新作を読むことはできませんがどんな世界を描くのだろうと楽しみにしています。