小説

吉田修一『アンジュと頭獅王』感想【圧巻の二十一世紀版山椒太夫!】

「山椒太夫」の話を聞いたことはありますか?

昔話として、森鴎外の代表作として、映画として、様々な形で発表されてきたお話です。

山椒大夫の簡単なあらすじ

12年前に行方知れずとなった父親を探しに、安寿と厨子王は母親に連れられて長い旅に出ます。

道中で悪質な人買いに騙されて母と姉弟は離ればなれになり、強欲な富豪に下人として売り払われてこき使われるなど苦難の数々です。

安寿は幼い弟だけでも無事に逃げ延びられるようにと、自らの命をかけた大勝負に打ってでるのでした。

幼い姉と弟に降りかかってくる、過酷な試練が痛々しく、その中でも身分に囚われることなく相手を思いやる人々に繋がれて育った厨子王が盛り上げるラストは涙を誘う深い余韻がありました。

そんな「山椒大夫」の話を現代版として吉田修一さんによって描かれた圧巻の書き下ろし小説がこの『アンジュと頭獅王』です。

上記したあらすじが時空を超える大冒険として蘇っています!

簡単なあらすじ・説明

古典の名作『山椒太夫』をベースに、上古も今も末代も、慈悲の心の尊さが描かれた作品です。

安寿と頭獅王が千年の時空を超えて繰り広げる、善の執着と悪の執着を描く大冒険です。

振り仮名も多く振って在り、幅広い年齢層の方に親しみをもって読むことができる作品。

ここからネタバレ注意!

アンジュと頭獅王の感想(ネタバレ)

過酷な運命を辿るアンジュと頭獅王

前半部分は覚えがあった古典の『山椒太夫』の流れで進んでいきます。

国を出たのが三月十七日、ほんの一時のつもりで出たこの旅路に、のちにこれほどまでの後悔をさせられるとは、このとき誰が思い立ちましょうか。

それにしても過酷な運命です。小さなアンジュと頭獅王とその母親にはこれでもかというくらい苦難が訪れます。

物語の人物には善と悪で人によってはっきり分かれていて、悪側の人間は徹底してアンジュや頭獅王たちを苦しめます。

善の人々の優しさによって何とか命を繋いでいく頭獅王ですが、一人ずつ不幸の波にのまれていなくなってしまうので、頭獅王が小さいことを思うと辛いです。

古典をベースにされている物語ですが、人間の本質はずっとまるで変わっていないことを思わせます。そして昔から大切にした方がいい考えも皆に実践されているかは別として変わっていません。

進歩がないのか、それとも誰しもが慈悲の心を持つことは不可能なことなのか。

だからこそ、聖の誓文には感動しました。

お坊さんである聖が頭獅王を救うために神に嘘の誓いを立てます。

頭獅王を探しにきた山椒太夫にこの寺に頭獅王はいないという誓いを立てろと迫られます。

その誓文は長文です。全国各地の思いつく限りの神の名前を上げます。

全ての神様仏様に偽りを誓いを言っているならば自分のみならず「一家一門、六親眷族、百年、千年、二千年。堕罪の車に乗せられて、たとえ修羅三悪道に引き落とされたとて、ここに誓文を立て申す」のです。

わっぱについては何も知らぬ

この聖の言い切る場面は心に残る名場面!

痺れました!

時空を超える世界観

「山椒太夫」の話自体が心が持っていかれるような苦難と救いの物語なのですが、聖が頭獅王を背負って歩く場面から物語の様子が一変します。

語りが源氏北条の話に触れたかと思ったら、大阪夏冬の陣、王政復古の大号令……。

え?

明治・大正・昭和・平成、

皮籠揺られて、ほうれほれ。

令和恋しや、ほうれほれ。

銀座・赤坂・四谷を打ち過ぎて、

内藤新宿とはこれとかや。

現代まで来てしまった。

まるで読めない展開。

古典なのに現代の話。ミックスというか、摩訶不思議な世界。

アンジュと頭獅王の物語はぴかぴかの新しさがある物語として頭に流れていきます。

まさに、

二十一世紀版山椒太夫!

Google、Apple、トヨタ、ソフトバンク等の株式、ICタグ、7G通信システム……。

現代どころか未来にまで伸びている物語の単語に笑ってしまいました。

面白く、そしてテーマは変わらず染み入る物語の芯を楽しむことができました。

アンジュと頭獅王の感想まとめ

読み終えてみればさすがの物語の展開でした。

苦難と救い、そして面白さ。時代を渡っても重みの変わらぬ大切な言葉。

存分に楽しみました。

仇を仇にて報ずれば、

燃える火に薪を添えるようなもの。

逆に仇を慈悲にて報ずれば、

これは仏と同格なり。

大切な言葉です。他人を見ていて、やられたらやり返されても仕方がないという見方を私はしてしまう時のほうが多いですが、自分自身はやられたらやり返そうと繋がるのではなく、ひとクッションおける心の余裕は持って行動したいものです。

今、ほぼ同時期に発売された同じく吉田修一さんの『逃亡小説集』も読んでいますが、通じているな心情もあって面白いです。

たくさんの気持ちや考えさせる部分を含めて、大きく楽しめる作品でした。

終わりに

昨年から今年にかけて『国宝』や『続・横道世之介』を読んでいてどれも本当に面白くて新作も即決で手に取りました。

作品によって題材が違うからそれぞれ新しい面白さと余韻があります。

この『アンジュと頭獅王』は古典的言い回しがありますが分かりやすくルビも丁寧に振られているので、始め慣れてしまえばきっと幅広い世代で受け入れられる『山椒太夫』だと思います。

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一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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