書評・感想

【2021年本屋大賞ノミネート作品】凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』感想

2021年本屋大賞ノミネート作品!

凪良ゆうさんは2020年本屋大賞の大賞を受賞した『流浪の月』の著者でもあります。

凪良ゆう『流浪の月』感想【2020年本屋大賞受賞作品!】|【雑記ブログ】いちいちくらくら日記 (tokeichikura.com)

そして今年についても本作がノミネートということで令和に入って一番話題となっている作家さんと言っても言い過ぎではないです。

本作『滅びの前のシャングリラ』は終末を描いた作品です。

地球が滅亡するという話は映画などでもよく見られるストーリーではあるのですが今の日本の私たちの価値観で、しかも繊細な心の動きを描き出す凪良ゆうさんの筆致で、がしがしと私たちの心を揺さぶります。

今こそ読んでもらいたい幸せについて問う物語を紹介します。

あらすじ

「1ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」

滅びゆく運命の中で、4人が自身の生きる意味を見つめます、

学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香、それともう1人のそれぞれの視点からの4章で綴られています。

荒廃していく世界の中で人生をうまく生きられなかった4人が見つけた光とは。

圧巻のラストに向けて惹きつけられていく小説です。

『滅びの前のシャングリラ』の感想

『滅びの前のシャングリラ』に漂う独特の雰囲気

まず「滅びの前のシャングリラ」というタイトルに雰囲気が詰め込まれているように思います。

滅びが近づいていく中でようやく感じていく幸せのようなものを読んでいると、美しくて嬉しいのだけど悲しいという、矛盾した複雑な気持ちを味わいます。

世界が終わる前、最後になにを食べたいとかはきっと誰もが質問されたり考えたことがあるのではないでしょうか。

でも、目の前にもし滅亡が現れた時に本当に大切なものに向けて動き出す登場人物の姿は誰もが考えたことのあるような質問の先を想像させてくれます。

すごいと思うのは、滅亡なんて現実離れしてるように思えるのに物語を読んでいると自然に入れてしまったのだということ。

それは登場人物が身近で共感できる気持ちを持って必死に生きているからだと思います。

いまわのきわが迫っていくということ

今際の際(いまわのきわ)とは最期のときという意味です。

Locoの視点で綴られる終章「いまわのきわ」。この地点がこの物語に生きる登場人物の最期が重なる場所です。

それまで友樹、信二、静香とそれぞれの別の視点の連作形式のような形で物語は綴られてきました。

ざっくり言ってしまえば子と父と母ですから、幅広い年代や立場の視点で進行してきました。

皆様はどの登場人物に共感しましたか?

私は物語を読んでいてそれぞれの人物のいまわのきわがこうであって欲しいという願望は持っていました。

でも自分自身のいまわのきわの想像や願望を今まで持ったことがないことに気づきました。

物語のような終末は現実に自分の身には訪れないと思っていますがでもいまわのきわはいつか必ず訪れます。

そんなことを考え始めたら登場人物全ての気持ちの動きが自分の今まで考えたことのない「いまわのきわ」の想像に重なって、ラストで泣けてきてしまいました。

これからの希望を持つことが悲しみというか寂しさに繋がる唯一の場面が「いまわのきわ」なのかもしれません。

 明日死ねたら楽なのにと夢見ていた。

その明日がついにやってきた。

前後の気持ちの描写や登場人物の行動は全て重大なネタバレになってしまいそうなので記載しません。

でも最後に訪れた終末の今日の場面は圧巻で、自分自身の人生にも繋がるような気持ちで溢れてします。

ぜひ未読の方は登場人物の心情をもろに受けることができる小説の素晴らしさを感じて欲しいです。

終わりに

本屋大賞受賞の『流浪の月』もとても好きです。

私としてはこの作品も負けないくらい引き込まれました。

2020年本屋大賞受賞後、第一作なのですが、ストーリーとしては入りやすく小説の読書が今まで苦手だったという方や、今まで凪良ゆうさんの作品を読んだことないという方にもおすすめです。

『滅びの前のシャングリラ』を読んで面白くて、凪良ゆうさんの著作をさかのぼっていき、小説にはまっていく方も多いのではないでしょうか。

ABOUT ME
いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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