第162回直木賞候補作品!
2019年下半期を代表する圧巻の歴史小説です。
第160回の直木賞受賞が戦後の沖縄で戦う人々が描かれた真藤順丈さんの『熱帯』でした。
その熱い生き様は熱く、それでいて読み飛ばすことのできない重さがあり嘆息でした。
本作は作者は違えど同じ日本で生きながらも違った文化を生きていたアイヌの話。
アイヌの中でも樺太アイヌが題材となっています。樺太は今でも北方領土問題で取り上げられますね。
時代としては大体日露戦争前から第二次世界大戦が終わるまでが描かれています。その時代に樺太に住むアイヌ民族はどのように生きていたのでしょうか。
そんな見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説です!
簡単な内容説明・あらすじ
樺太アイヌの闘いと冒険を描く前代未聞の傑作です!
樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。
開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志します。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれました。
ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られます。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着きます。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作です。
ここからネタバレ注意!
熱源の感想・レビュー(ネタバレあり)
圧巻! 史実に基づいたフィクション!
史実に基づいたフィクションとして描かれた本作品。
この時代に生きるアイヌの人々が激動の時代を生きていたのが伝わってくる圧巻の作品でした。
アイヌの人々がいて、和人がいて、ロシアの人々がいるサハリン。
時代としては日露戦争があり、幾度の世界大戦がはじまり終わる時代。
同じ人間だと一緒くたにできない関係が目まぐるしく変化する時代です。
特にアイヌに生きる人々は和人に語られる文明に飲み込まれようとしていました。
でも、どの立場の人もそれぞれ「理想」があってそれを追い求める姿があります。
それが実在した人物によって、実際の足跡によって紡がれているので大興奮でした。
南極探検隊の足跡や金アイヌ語研究の第一人者・金田一京助の姿、そして物語中には大隈重信が登場するなど、その歴史を動かそうとする大きな物語は圧巻です。
ヤヨマネクフの熱さ
私はこの小説を読んでいてもっとも惹きつけられたのはヤヨマネクフです。
時代の変遷と共にアイヌ種族が滅びるのではないかという心配をヤヨマネクフはずっとしてきました。だからこそアイヌが見直されるきっかけとして南極探検へと志願し、極点まで行けずとも南極に立ちます。
それまでのヤヨマネクフの人生というのは困難の連続です。妻が亡くなり、故郷の樺太へと戻り、そこで生き抜くことはこの激動の時代にあって険しい。
その中で考え続けてきたアイヌ種族としての生き方の答えに痺れました。
終盤の大隈伯爵との会話シーンは最も感動した場面でした。
つい、と風が吹き、伯爵の袴がはためいた。ヤヨマネクフも被っていた制帽が飛ばされそうあり、押さえる。
「お言葉を借りれば、見直される必要なんてなかったんですよ、俺たちは。ただそこで生きているってことに卑下する必要はないし、見直してもらおうってのも卑下と同じだと思いましてね。俺たちは胸を張って生きていればいい。一人の人間だってなかなか死なないんだから、滅びるってこともなかなかない。今はそう思ってます」
「わたしの考えとは、少し違うようだな」
伯爵は面白そうに言う。
背負っているもの、考えていること、そしてその上での行動力が大きくて、ただ驚いて嘆いて、感動してうまく消化できていない自分はいるのですが、こういった歴史があって今自分たちが生きている時代に繋がっているということを考えると新しい感性が開かれるような気します。
熱源の感想まとめ
命がけで何かを変えようという人間が集まっている物語。それは圧巻の一言です。
アイヌ種族については勿論、第二の主人公ともいえるブロニスワフの人生もまた激動です。私自身は歴史に詳しくはないのですがそれでも使命を感じる人々の大きく止めることのできない力のようなものを読んでいて感じました。
最後のクルニコワの思ったこと、
この戦争は、もう少し続く。ひどい光景がまた繰り返されるだろう。
それでも生きよう。そう思った。生きたいと思えるまで生きてみよう。
風化させていけない出来事と想いがあります。
今を考えて、これからを考えることも大事ですけど、今までのことは目を背けようとすれば背けられる。だけど、自分の判断基準を養うためにも今までを知ることは大切だと思いました。
熱く、苦しく、始まりがあるこの物語は読んでよかったと思える一冊でした。
終わりに
昨年末に読み終えた一冊でした。
読み終えて考えれば考えるほどさらに考えこんでしまう。そんな重く深みのある小説でした。
ただ読んでいる最中は登場人物の熱い想いや、聞いたことのある歴史上の人物が出てくることもあって先が気になって仕方のない読書でした。
直木賞の発表も控えて結果も気になるところではありますが、注目を浴びて欲しいと思います。
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