太刀洗万智が活躍する切れ味抜群のミステリー短編集です!
以前投稿した『さよなら妖精』には学生時代の太刀洗万智が登場し、今回紹介する『真実の10メートル手前』ではジャーナリストとして活躍する太刀洗万智が登場します。
2016年を代表するミステリーです。
(2016年「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)国内部門第2位、2017年「ミステリが読みたい」(早川書房)国内編1位、「このミステリーがすごい!」(宝島社)国内編3位、第155回直木賞候補作)
そんな魅力たっぷりのミステリーを紹介します。
Contents
簡単なあらすじ・説明
ジャーナリスト、太刀洗万智が出会う6つの事件が綴られた短編集です。
短編はそれぞれ完結しています。
表題作の短編「真実の10メートル手前」は後に書かれた長編の『王とサーカス』の前日譚として始め書き始められたそうです。(出来上がった小説は長編というよりも一個の短編だったので切り離されたそう)
その他にも高校生の心中事件に違和感を覚える「恋累心中」や、日本推理作家協会賞受賞後第一作「名を刻む死」、土砂崩れの現場から救出された老夫婦との会話を通して太刀洗のジャーナリストとしての姿勢を描く「綱渡りの成功例」など粒ぞろいの六篇です。
真実の10メートル手前の感想
どの話も切れ味のある真実が隠されていて、真実が明かされると唸ってしまうような短編ばかりです。
読み始めてすぐに思いました。
面白い!!!
太刀洗万智は真実に辿り着き、その真実の作用まで考えて、受け止めるような女性で、そっけない癖のある人物のようなんですが彼女の行動を振り返ってみると優しくて、時々痛い。
読んでいると私は馬鹿なんじゃないかって感じました笑
太刀洗万智のセリフについていけなくて、彼女の発言が時として飛躍するという記述があっても、どっぷり話に浸かって読んでいると周りの人物同様に何言ってるんだという気持ちになって。
それが嫌な気持ちではなくて、面白くてたまらないのです(時には私がその場にいたら頭の回転遅さに呆れられるんじゃないかという緊張感もある)。
発言の真意に興味を覚えるからかな。物語の人物なのに尊敬してしまう。
尊敬まで感じてしまうくらいに話に浸かれるのは、読みやすい文章に魅力的な謎解きがあるからだと思います。
さらには謎解きだけが魅力ではなくて、重めの事件を取り扱っているからこそ、そこには浅くはない人間模様があって、特に「名を刻む死」の最後は涙のツボでした。
京介の気持ちもよく分かるし、それに対しての太刀洗万智の反応も痛いくらいに分かる。
あと「ナイフを失われた思い出の中に」は自分の馬鹿さをたくさん感じて、後から何度も何度も唸りました笑
『さよなら妖精』という話がもっと前の太刀洗万智が描かれた話なのですが、全部完結された短編なのでこの小説のみで充分以上に楽しめます。
魅力的な登場人物の鋭い謎解きは面白いですね。美味しい食べ物を食べるみたいに次へ次へ読書欲を掻き立てられる読書でした。
終わりに
私自身はミステリーを好んで読んでいない何年間があって米澤穂信さんの作品も網羅できていませんでした。
でも昨年読んだ『本と鍵の季節』が面白くて、今度はみんなが面白いという『王とサーカス』を読んでみたい気持ちになってました。
その気持ちの流れの中で文庫本コーナーをうろうろしてたら、まず『王とサーカス』と同じく太刀洗万智が主役の『さよなら妖精』や『真実の10メートル手前』を読んでみたくなって手に取りました。
今では大好きな作家の一人です。そして太刀洗万智が活躍する作品に魅了された一人になりました。