小説

乙川優三郎『太陽は気を失う』感想【ままならない人生と直視する人々】

地震や火事など最近もほとんど毎日のように辛いニュースが流れています。

今回紹介する乙川優三郎さんの『太陽は気を失う』はままならない出来事の中で生きる人々を描いた短編集です。

14作品が収録されています。

最近のニュースや私自身の身の回りの出来事からふとこの本のことを思い出して紹介します。

あらすじ

災害や病気、介護、男女問題などままならない人生を直視する人々を描いた短編集です。

掌編とも言える短さの作品が14篇綴られています。

太陽は気を失うの感想

大人の短編集でした。

どの作品も人生の転換期を迎えて後悔や絶望、かっこ悪いあがきも抱え込んで前を向こうと生きています。

エネルギーを発散して乗り越えようと立ち向かうという雰囲気よりも、もっと落ち着いていて少し陰が差しているようか、儚さを感じるような空気が漂っています。

人生の酸いも甘いも経験してきた人間だからこその雰囲気なのでしょうか。

私には出せない空気で魅力にも感じました。

1番心に残った短編は表題にもなっている「太陽は気を失う」です。

東北の海沿いの町にいる母の元へ帰省します。

帰省の目的は母の見舞いと幼馴染の墓参りです。

その先で大地震が起きます。実は「私」の帰省には別の目的もあり、地震をきっかけに感情にも変化が訪れる話です。

私は読んでとても個人的な情景が浮かびました。

東日本大震災の時、私は仙台にいました。(福祉職に就く前は営業をしていました)

勤めていたビルの7階で地震が起こり、4人がかりでも運べないような書庫がばったばったと崩れてただ事ではないと思いました。

地震後名古屋支社から電話があり、状況を伝えて切ると電話回線はそれを最後に繋がらなくなりました。

ビルの柱にヒビが入っていたのでみんなで外に出て駐輪場で集まると雪が降ってきました。

年に数える程しか雪の降らない地域なので異様に思えていました。

異様と言えば、夜、コンビニへ行くと真っ暗な中、手売りで販売していて店の中で客が買ったものなのかわからないものを飲み食いしてゴミを散らかしていたのでそれも異様でした。

ただ仕事の激務に疲れていて帰れる喜びが優って、家に着くと電気のつかない暗い部屋の中で2日目のカレーがひっくり返っていて、最悪だけどとりあえず眠ろうとカレー臭い中布団に潜った記憶です。

翌日事態の深刻さが分かり色々起きてしまうのですがそれは置いておいて、地震当日のことがこの作品を読んでとてもリアルに浮かびました。本当に久しぶりに。

つらつらとすみません。

なんというかこの14篇の短編は気持ちの深いところをかすめていくような味わいがあります。きっとどれかの話は皆さんの気持ちにある情景を浮かび上がらせるのではないでしょうか。

私がありありと浮かんだのが上記した地震の日のことだし、もっといろんな経験を積んでこの本を読めばまた違う景色が浮かぶのかもしれません。

しっとりと噛みしめるような安らぎを得られる作品です。

終わりに

またいつか再読してみたいと思える本でした。

掌編ともいえる長さなので読みやすいですし、ぱっと何かを感じられるような切れ味があります。

この本はインスタの読書アカウントでフォロワーさんに紹介してもらった本で自分だけでは出会えなかったと思う本なので読み終わってありがたいなぁと感じました。

ABOUT ME
いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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