今年映画化された西加奈子さんの小説です。
草彅剛さん主演で話題になりました。
大人になりたくない少年の恋物語。
恋をした大きな秘密をもつ少女はミステリアスな雰囲気があって「撒く」ことが大好き。
「撒く」こと?
子ども達の瑞々しい魅力が詰まった物語でした。
あらすじ
子どもと大人の狭間で身体も気持ちも揺れ動く小学五年生の「ぼく」を中心とした話です。
小さな温泉街に住む「ぼく」と街にやってきたコズエとの出会いから話は始まります。
コズエは小石や木の実、ホースから流れる水など何でも撒くことが好きな、少し変わった、そしてきれいで、秘密を持った女の子です。
かけがえのない思春期を生きる「ぼく」の葛藤とコズエとのせつない初恋を軸に、家族を愛しつつも浮気をしてしまう父親、それを知りながら明るくふるまう母親など小さな町のどこか不器用な人々が描かれてします。
まく子の感想
コズエの不思議さに誰もが持っているような感覚があって、それに気づき、惹きつけられて、また迷って、不安になって、成長のような変化があります。
西加奈子さんの有名な著作『サラバ!』とはまた違った空気が流れています。
人の成長や変化に対する感覚的な部分は共通して感じることができるのだけど、作品に流れる雰囲気はこちらの方が私はフィクション的に感じました。
だからもしかしたら『サラバ!』を好きで『まく子』を読んだら違うと思う人もいそうだし、作品が終わってふわふわした感じになる人もいるのかもしれません。
私は好きです。
子どもと大人に明確なラインはないけど、昔から変わってない部分はよく実感できます。
でも変わった部分は、特に感覚的な部分は、知らない間に消え去ってしまっていて、それは悪いことじゃないけど、消えたことに気づくとはっとするというか、寂しくもあり、自分てこういう人だったって思い出せて新鮮な気持ちでこれからが見えたりします。
そんな気持ちにさせられた、帯の言葉を借りれば、誰しもに宿る「奇跡」の物語です。
過去に出会った出来事は思い出したくないような最悪な出来事もたくさんあるけど、出来事自体ではなくてその時に感じた気持ちは私にとってはとても大切です。
時間がもっと経って、例えば昔書いた日記的な文章やこういうレビューも、子どもの時大人の考えや気持ちがわからなくて感じたように、宇宙人的に感じるときがくるのかな。
そう考えると今、この『まく子』を読めてよかった。
終わりに
感覚的な部分は自然と消え去ってしまうというのは怖いし寂しいです。
今、私自身、日々が慌ただしくてへろへろになりながら一日を終えてします。
そんな一日が積み重なって一年、二年と過ぎていきます。
充実とも言えるのかもしれないしできることも増えて新しい経験も積めていると思います。
でもあまりにも時間がいつの間にか過ぎてしまっていて年齢を重ねて、もしかしたらぽろぽろと私自身が大事にしていた感覚は零れてしまっているのかもと感じることもあります。
ちょっと感傷的に書いてしまいましたがきっと『まく子』を読んでこういう気持ちになったということはそうなのでしょう。
けして悲観することでもないのだけど。