白石一文さんの最高傑作と銘打たれた2018年発表作!
裏表紙には著者のコメントとして、
「この2年間、ぼくはこの作品をおもしろくすることだけ考えてきた。これで直木賞を取りたかった」
そして担当編集者のコメントとして、
「夫婦、男女、家族。ひとは複数の顔を持ち、さまざまな思いを胸に秘めている。ゆえに人生は複雑だ。白石一文はその複雑さを熱気と色気たっぷりに描き出した。絶え間ない、ハラハラドキドキ。これが小説です!」
裏表紙に書かれた2つのコメントを読むだけで手に取りたくなります。
私は昨年の9月からインスタグラムの読書アカウントを立ち上げて、その繋がりで読書メディアのライター活動をし、そして2月の終わりにこのブログを立ち上げました。
その始めであるインスタグラムの読書アカウントを立ち上げようと思ったきっかけの一冊です。
面白い小説を広めたいし、共有したいという気持ちがありました。
私的にはもっともっと話題になって欲しい一冊です。直木賞とか本屋大賞とか繋がって欲しいと願った一冊です。
あらすじ
加納鉄平は妻・夏代の驚きの秘密を知ります。
いまから30年前、夏代は伯母の巨額の遺産を相続していてそれは今日まで手付かずのまま無利息口座に預けられているという秘密です。
結婚して20年、なぜ夏代はひた隠しにしてきたのでしょうか。
そこから日常が静かに狂い始めていきます。
鉄平は人生を取り戻すための大きな決断をします。
夫婦は所詮他人なのでしょうか?
お金とは? 仕事とは?
めくるめく人間模様を描く、直木賞作家・白石一文さんの傑作です。
ここからネタバレ注意
一億円のさようならの感想(ネタバレあり)
1億円の強烈ワード
1億円を手にしたらあなたはどう行動しますか?
妻の夏代は伯母の莫大な遺産を相続していたことを知ります。
現在にして48億円ほどになる遺産です。
それが鉄平にばれ、2人はお金について、隠してきたことについて、考えるために距離を置きます。
その時に夏代から遺産の内に「お金について考えるために」1億円を受け取ります。
お金がどれだけ大事なものなのかは個々人違うと思います。
でもお金のあるなしで人生の内で考えられる選択肢も増えることもあるわけで人生とお金というのは社会の中で生きる私たちとしては密接な関係があることを感じました。
私自身1億円というお金でも想像もできない莫大なお金でもしぱっともらったことを想像しても使い道は即答できません。
でも鉄平が踏み出したように金沢へ出て新しい事業を起こすという選択肢はとても共感できる部分でありました。
だからか、鉄平に感情移入しつつ物語を面白く読み進められました。
夫婦関係と大どんでん返し
パートナーが大きな謎を抱えたままずっと暮らしてきたことが分かったらどんな気持ちになるでしょうか。
鉄平は母親が入院した時に病室の隣の部屋がうるさくて眠れないという申し出に対して「もう少し安い部屋が空いたら」という理由で待ってもらいます。
しかし母親はそれから数日後息を引き取りました。病室が高額な部屋しか開いておらず当時の鉄平の経済状況では難しかったのです。
ただもしその時に妻の夏代が自身のものだと思ってなかったとしても引き出せる遺産があることを知らせてくれたならと考えます。
そしてそのうちの2億円は信頼する弁護士に勧められるがままに出資していた経歴があったことを知るとなおさら知らせてくれて、「借りる」という名目でも鉄平の母のために使わせてもらえなかったのかという点について引っかかります。
引っかかりながらも夏代が距離を置いてお金について考えることを了承した鉄平です。
1億円という引くキーワードを元に家族関係や夫婦関係を描く物語なのかと思っていました。
それは間違いではありませんが第一部の終わりのどんでん返し。
信頼する弁護士に勧められて出資したという二億円は本当はかつて愛人だった木内の起こした法人への出資金だったことが分かります。
もう全く先が読めない。
ただこの嘘に嘘を塗り重ねる展開、夏代が分からなくなる。
そして考えます。
子ども達が自立した先に夫婦としての関係を続ける意味というのは何にあるのでしょうか。
私自身、親が一番小さな弟が大学の卒業が見えたタイミングで離婚したのでよく考えてしまいます。
そして離婚後、仲良くやっている姿を見ると「夫婦」という関係と距離感についての意味を考えてしまいます。
そういう人生の中でお金や仕事や夫婦、家族について大きな問題であり、面白みである事柄がこの小説の軸としてあるのでぐいぐい読ませる圧倒的さがあります。
鉄平が夏代に告げずに会社を去り、金沢の地へ旅立った第二部以降にさらなる面白さを感じました。
一億円にさようならの感想まとめ
夏代さん、すごい。
というのが第1感想でした。
鉄平との交際、結婚、離れてからの行動、そして再度金沢まで鉄平に会い来た場面など、行動力や想像もつかない底の深い考え方にすごさを感じます。
鉄平もラストで思わず、
この人には、俺はやっぱりかなわないな。
と心の中で呟きます。
こういう関係性も夫婦の一つの形なのかもしれません。
この小説は、
第一部で謎が重なり最後に恐ろしさと怒りを感じる物語。
第二部は金沢で新しい鉄平の事業が始まるサクセスストーリー。
第三部は第一部、第二部が重なる圧倒的なストーリー。
それはこれが最高傑作だと言えるくらいの内容でした。
終わりに再度夏代が上をいく物語はもう夏代に対して怒りを感じることはなく、新しい夫婦生活の始まりを感じるような新鮮さがありました。
一億円のさようならを読後感じた〇〇
装丁が強烈で暗くて重い話を想像していましたが、読んでみるとそんな単純じゃない前向きなハラハラドキドキが詰まっていました。
ページをめくる手を止めるなって五感に訴えられてあっという間に読了。満足でした。
話題になって欲しいと思える一冊でした。