創作短編です。
前回投稿した『ダメ男のキャッチボール失敗①』の続きです。
(全部で4回予定。週末に投稿予定)
Contents
はじめに
今回も1000文字ちょっとで2,3分で読める②です。
若い夫婦のキャッチボール物語。
『ダメ男のキャッチボール失敗②』
「旅行でも行こうか」
朝起きてもソファでぼんやりしている美和子にそう切り出した。
仙台に来てからろくに観光もできていない。松島とか作並温泉に行っても面白いかもしれない。車を走らせれば蔵王でも気仙沼の方面でもいくらでも足を伸ばせる。
「宮城県って観光名所たくさんあるみたいだよ。おいしいものでも食べてさ」
すかさずスマホで検索した画面を美和子に見せてみる。美和子は少し首を動かしてスマホの画面を見る。
「行かない」
美和子はこう答えるだけだった。
「じゃあさ、どこか行きたい場所あるかな?」
「ない」
会話にならずに苦々しく思った。
美和子との関係がこうなる前、いや、私がこうしてしまう前にはどんな人でどんなことを楽しみにしていただろうか。
「そっか。なんかあったかいものでも入れるね」
言葉をただ繋ぐように私は言って美和子の返答を待たずに非難するように台所へと向かった。
美和子との出会いは大学を卒業して働き出した新卒時代である。真夜中の公園だった。
戦前飛行場だった場所が戦後米軍グランドハイツとして利用され、返還された後大きな公園になった。
昼間は地域の人たちに親しまれる公園だったが、夜中人通りが少なくなると治安の行き届かない無法地帯となっていた。学生時代にはあの公園でかつあげされただの誰かが刺されただのいい噂の聞かないその夜中の公園で私は近寄らないようにしていた。
あの時、家までの帰り道、公園を迂回せずに中から突っ切っていこうと思ったのには理由がある。
新卒時代、しこたま上司に怒られる日々が続いていた。毎日毎日皆の前で怒られて恥をかいて自分自身がばらばらになる想いだった。怒られる理由は私自身の営業成績が芳しくないことと新卒時代は怒られることが糧となるという考えをもった先輩が私の直属の上司になってしまったという分もあったからだ。
「じゃあ、辞めれば?」
新卒の愚痴が氾濫しているTwitterを眺めていると決まり文句のようにそんな言葉が流れている。
でも「辞める」という行為がどうにも怖いように思えていた。それは消える職場だとしても「耐えられなかった」というレッテルを貼られることが悔しかったこともあるし、言い出すこと自体が怖いということもあった。
だから、その頃の私はとりあえず一年がんばろうと決めつつも、「どこかで事故でもあわないかな。そうすれば大手を振って休むことができるのに」と考えてしまうこともあった。
ひたすらに疲れ果てた頭の中で公園を突っ切って帰ることは最短距離で帰るというメリット以上の価値を孕んでいる気がしてその日は公園に気づいたら入っていた。
そして案の定その日私は赤い上下のスウェットを着た男と白い上下のスウェットを着た男に絡まれた。
「こんな夜中に何してんですか?」
「ねえ、財布落としちゃって、困ってるんだ。お金かしてくれませんかー?」
私は男二人組を見た。私よりも体格のいい二人組。取っ組み合いになったらまず勝ち目はないだろう。
私は疲れていた。だから怖さはない。しかしただ財布を出すのはただの不幸で終わってしまうという考えがあった。
一発でも殴ってくれないかな。
私は思い浮かべる。そしたら財布を奪われた後でも警察を呼んで大事にして明日会社を休んでやる。
「ねえねえ、そんな震えなくてもいいじゃないの。ただお金を貸してっていってるだけだからさ」
赤いキャップと赤いスウェット姿の男が私に馴れ馴れしく肩を組むようにして話しかける。
恐怖はないはずなのに私は震えていた。そして二人組は私を取り囲むだけで殴ったり暴力に訴える様子はなかった。雰囲気に押されるように私はスーツの内ポケットにはいった財布を取り出そうとした。
その時、声が響いた。
「きゃっなに?!」
私と二人組は振り返る。そこには女性がいた。
彼女は財布に手をかける私と二人組を見てすかさずバッグからスマホを取り出す。
「おいちょっと待て!」
男達は私から即座に離れて女性を取り囲むようにしてスマホを奪った。
「なにやめてよ」
一人が女性の手を掴んで、一人が奪ったスマホを投げ捨てた。
「やめてよ。いたっ」
泣きそうな女性の表情が私の目に映った途端に私の中で何かがぷつんと切れた。気づいたら動き出している。
駆けだしていってジャンプ、そして女性の手を掴んでいる男の背中にドロップキック……をかまそうとしたが足がうまくあがらずに体当たりのような恰好になる。
ただ私と男はもつれるようにして女性から手を離しその場にころがった。
「なんだ! てめえ!」
怒声が飛び交う。
「じゃめろ」
私は必死に声を上げたつもりだったが噛んでしまってよくわからない言葉になった。そしてもつれた男が私を振り回すようにぐるりと位置を変えて馬乗りの形になった。そして拳を振り上げる。
「ひぃぃ」
暴力の予感でたちまち私の心は折れてしまう。
私はもはや悲鳴のような声で顔の前に手を交差させて「やめてくださいぃ」と叫んだ。
「ふざけんな!」
私の哀願虚しく私は鼻っ柱に拳を埋め込まれて涙を流して「ごめんさない、ごめんなさいぃ」と繰り返した。
その時だった。
終わりに
少しずつ内容が過去の作品とずれていますが、暇つぶし程度で楽しんでもらえたら嬉しいです。
あと二回、もしくは三回程度で終わります。
よろしくお願いします。