創作ショートショートです。
2000字程度の文章で3,4分で読めると思う読み切り作品です。
ただ設定が繋がっている部分があるので過去の「カーテンさん」タグの話を読んで頂くといいかも。(どの話も1000文字から2000文字程度で各話3分程度で読める話です)
簡単にあらすじを書くとカーテンをマント替わりにして地域の治安を守っていたヒーロー「カーテンさん」の話です。
今回は引退後の練馬区のカーテンさんと杉並区のカーテンさんが登場します。
ふざけたような話ですが息抜き程度に活字に触れて頂ければ幸いです。
『美しさは若さではない』
窓際はカーテンから橙色の光が零れていてうさぎのぬいぐるみの鼻先に光の道筋を作っていた。うさぎの足元を嗅ぐように畳に横たえている娘の優衣がいる。光の中で宙に浮かぶ埃を見て「空気の入れ替えね」と窓を大きく開けた。
中から見ると静かな風は思ったよりも力が強くてカーテンをふんわりと舞い上がらせた。カーテンにくすぐられた優衣は「きゃっきゃ」と声を上げた。
「もうすぐご飯だからね」
台所に戻る背中で優衣に声をかけた。「おなかすいたー」と優衣は返事をする。
炊飯器の画面は5分後に炊き上がることを示している。火にかけたお味噌汁の鍋の蓋を開けると白みその甘い匂いがした。主菜の生姜焼きを一口味見してみると隠し味に入れた蜂蜜がいい味を出していた。副菜の和え物は優衣がちゃんと食べるか心配だけど食卓に並べるとなんだかしっかりした夕食を作っている実感になった。
これが充実であり幸せなのだろうか。温かく浮かぶこの気持ちに何かを付けたそうなんてないものねだりだ。
外では窓を開けたせいか布団を叩いて取り込む音が聞こえる。団地に住む人々の距離は異常に近い。夜に外で笑い声をあげる子どもの声がすればあの家のだれだれだわ、大変ね、などと一つの家族内の出来事のように思うことができる。十一棟にも及ぶ団地の密集地域は全てが一つの身体のようだ。
それなりの近所づきあいが煩わしくはあるけれど朝起きて夜寝るという生活のリズムの線が家族の数の分だけしっかりなぞらえて濃くなっていくようで集団の中で「正しく普通の生活」をしている安心感もある。
米飯をよそって「ご飯だよー」と声を上げる。返事はない。カーテンがぱたぱた揺れる音が聞こえるばかりである。
「まったくもう」
ちゃんと返事をしないのは誰に似たのか……ぶつぶつ小言を落としながら寝転んでいる部屋を除くとカーテンが大きく風で膨らんでいた。
「優衣?」
カーテンが波が引くように萎んでいくとうさぎのぬいぐるみが顔を出した。優衣はいなかった。
私は身体中が固まるような衝撃のすぐ後にベランダへと飛び出した。優衣はいない。
泣きそうな想いを振り払ってベランダの柵から階下を眺めた。真ん中、右、左、真ん中。
よかった。落ちたわけではない。じゃあどこへ?
顔を上げた瞬間に憎しみが湧きおこる。
「杉並区ぅ!」
優衣を片手で抱えた男がカーテンをマントヒヒのように広げてゆるやかに公園の方へと風に乗って流れていた。器用に片手と口と両足でカーテンの四隅を摘まんで風を最大限に受けていた。
カーテンさんを引退して私は結婚をし優衣を授かった。紆余曲折あって離婚し、優衣の成長が私の喜びである毎日を過ごしていた。いつからだろう。離婚の噂を聞きつけた自称「杉並区のカーテンさん」が現れたのは。
あいつは私を狙っていたはずだ。だから久しぶりに出会って「離婚したって聞いてワンチャンあるかと思って」などと現れたのだ。それが優衣を見ていつの間にか「昔の君に似ている」と言い出し、優衣目当てで現れるようになった。
ロリコン杉並区め。
私は部屋のカーテンをはぎ取る。杉並区を見習って両手と片足と口でカーテンの四隅を摘まむ。そして残ったジャンプしてベランダの柵に飛び乗り、そのまま勢いで跳んだ。
優衣はかわいい。彼女を眺めていると気持ちのままに行動する姿に心が洗われる。私自身に生きていく中で余分なものが付きすぎていることに気づく。
私は姉を失いカーテンさんになりそしてカーテンさんを辞め結婚して出産して離婚していく中で自分の中にあった大事な私自身のかけらを失ったことに気づいた。
杉並区はにやりと笑ってこう言った。
「若さって美しいんだな」
次の瞬間、かつてと同じように延髄蹴りで失神させてやったのだが言葉は呪いのように付きまとう。
「美しさは若さでない」
失神する彼の後頭部に向かって思い切り教えてやった。
でもふと思う。若さではない美しさは私の中で育まれているのだろうか。
「あっはっはっは」
杉並区が大きく笑っている。優衣は「きゃっきゃ」と笑っている。全く優衣は空気が読めない。
かつての公園へと不時着する杉並区と優衣を追って風に揺れる私もなぜか大笑いが込み上げてきた。
解放感に揺らされて私はそういえば私はこういう笑い方をしていたなと思い出しながら間違いなく愛してやまない優衣の元へ一刻も早くたどり着いてたくさんのハグと笑いを共有したい想いにかられていた。
終わりに
真剣に情景を思い浮かべて書いていく中で突拍子のない方向に話が揺れていくと私自身書いていて面白くなります。他者が読んでどう思うのかはこれからの課題ではありますが「まぁ、ブログだし」という気持ちとどこかに応募するものでもないしという気持ちでつらつらと書いています。
「若さは美しいが美しさは若さではない」という言葉はYUKIが語っていたことがあってそれがずっといい言葉だと私の中に残っています。
美しさというか私の中で歳を重ねてますます自分自身のことを好きでいれる自分でいられるように物事をがんばろうという励みになっています。
外見は勿論なんだけど、どちらかと言ったら内面です。
働いていると「俺が二十代の時はこういうことがあってこれだけしんどかった」とか話す人によく出逢います。
僕としては30代も40代もいくらでも頑張れるし苦しんでも耐えれる力があると思っているので寂しくなります。
まぁ他人は他人ですね。まず自分がんばれって感じです。
https://tokeichikura.com/tag/カーテンさん
カーテンさんタグページです。全て読み切りなのでもしよろしければご一読下さい。