創作短編です。
前回投稿した『ダメ男のキャッチボール失敗②』の続きです。
(全部で4回、週末に投稿予定)
Contents
はじめに
今回も1000文字ちょっとで2,3分で読める③です。
若い夫婦のキャッチボール物語。
『ダメ男のキャッチボール失敗③』
女性の悲鳴が聞こえたのだった。
私は涙で霞む目を見開いて女性の方を見るともう一人の男が女性が場を離れないように手首を捕まえているのが見えた。
私は咄嗟に目の前に馬乗りになっている男に向けて身体を起こすようにして胸元に額を思い切りぶつけた。
鳴きながら降参する男が突然力を込めて反撃してきたので驚いたのだろう。男は明らかにひるんで胸をぶつけられた衝撃で後ろに手をつくように倒れた。
全身の力を込めて男の身体ごと振り払うように立ち上がる。
見えているのは女性の手首を掴んだ男だけだった。
驚いた顔の男の顔がぐんと近づく。何をしていいのか分からないが走った勢いのまま男にぶつかった。
そのまま男の身体を強く掴んで地面にもつれこむ。
「いってくれ!」
女性に届くように叫んだ。
声は届いたのだろうか。
私は間もなく二人組の男が態勢を立て直し、また「ごめんなさいぃ」と蹲り暴力に耐える図となった。
その容赦のない暴力ですぐに女性を助けたことへの後悔が頭に浮かぶ。
私の意識は遠のいていく。何度も謝る自分の姿は自分でも格好悪いと思った。
その日のことを女性である美和子はこう振り返る。
「本当に格好悪かった。でも嬉しかったの」
意識が遠のいた先に私は病院に搬送されていた。私達を襲った少年達は警察に捕まったということだった。
「どうして? 誰が?」
私が訪ねると美和子は「通りがかったおばさんが助けてくれたの」と言う。
「そうなんですか」
病院で私は見舞いにきた美和子はおばさんが警察に通報してくれたのだと言った。その時はおばさんが警察に通報でもしてくれたのだと思っていた。
でもカーテンをマントのようにつけたおばさんが少年達をなぎ倒した話を語りだした時、人見知りだと思っていた私は非常に興味が湧き、初対面との美和子との会話が盛り上がったのだった。
美和子の言葉を思い出す。
「あなたは本当に優しい。格好悪いし頼りになるわけでもないけど、強い優しさがある」
私がプロポーズをした時にくれた言葉だった。
美和子と付き合い始めた時のことを思い出して私はまた後悔の念が押し寄せる。
私は大事にしなくてはならないものの優先順位を完全に間違えていた。私の身近でずっと応援してくれた美和子が参っている時に自分のことばかりだった私に美和子があの時くれた言葉はまるで合うものではなかった。
「やっぱり晴れているし外にでよう」
「いかない」
「なんかさ、飲み物でも持って、公園の広場でのんびり過ごすのもいいんじゃない?」
「いや」
「じゃあ、DVDでも借りてきてすぐ帰ってきて一緒に観ようよ」
「観たくないからいいです」
敬語の距離感が胸に深々と突き刺さる。
「ねえ、お願い。私が美和子と散歩したいんだ。この通りだから」
私が繰り返しお願いすると美和子は大きくため息をつきながらも立ち上がってくれた。
「ありがとう」
畳みかけるようにお礼を言ってさらにため息をつく美和子を半ば強引に公園へと連れだした。
どこまでいっても格好悪い私です。だけど私は元からそういう人間だったのだ。不細工なお願いと不機嫌そうな美和子を連れて出た外は明るい。とても楽観的になれる状況でもなかったが俯いた美和子の気分が見えている私がそこから逃げることはしたくなかった。(続く)
終わりに
突拍子もない話も入っていますが、書いていて面白いです。
何かに出すとか、お金が絡むとかでもない投稿だからこそ書ける話だと思いますが、とりあえず次の回で終わらせます。
よろしくお願いします。