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はじめに
創作ショートショート。1000文字小説です。
2,3分で気楽に読めるものです。
『まるで世界の真理のように』
「カーテン! カーテン!」
壇上で叫んでいるのは杉並区のカーテンさんだった。杉並区のカーテンさんは右手を頭上に大きく掲げた。
「遮光性!」
そして後ろを振り向き背中に鬼を作るがごとく力を込める。カーテン越しでも二の腕が盛り上がるのが見て取れた。
「遮音性! 遮熱性!」
陸上競技場の中心でポーズを取り叫ぶ杉並区のカーテンさんへ大きな歓声が上がる。そしてくるりと前を向き、正拳突きのポーズ。
「遮蔽性!」
さらに盛り上がる大歓声の中、脇に控えた中野区のカーテンさんは「やれやれ」と首を振って笑顔で嘆いた。
「まいったね。カーテンの機能性と肉体の機能性を掛け合わせた究極の美術品だよ。杉並区の彼は、さ」
そもそもこのカーテンさん同士の戦いは何のために行われたのだろうか。
練馬区のカーテンさんに恋をした二人のカーテンさんの果し合いのはずだった。
果し合いと言っても殴り合いではない。平和を愛するカーテンさんたちだ。練馬区のカーテンさんをメロメロにするための華麗な演舞だった。
寸止めで二人は華麗な演舞を見せ合う。ただ帰ってくるのは練馬区のカーテンさんのあくび、そして退席だった。
行き所のない二人の演舞はやがて敵であった相手のカーテンさんに向けられた不毛にも見える魅せ合いだった。
しかし平和を守ってきたカーテンさんの人気は多少コアでニッチな人気ではあったが助けられたもの、やつけられたもの含めて公園の陸上競技場を一杯にするほどには広がっていた。
夜中に催された奇妙で熱い果し合いというショーは他人の不幸に幸せを感じるこんな世の中でカーテンの舞いによる魔法で健気な二つの小さな花の姿を思わせた。
そう健気にがんばることとは何て美しいことなのでしょう。
そんな盛り上がりの中、公園から離れるカーテンの影もあった。練馬区のカーテンさんである。
彼女は泣いていた。しくしく泣いていた。
笑っている人がいれば泣いている人もいる。それはこの世界の真理である。
二人のカーテンさんの演舞が気に入らなかったわけではない。でも躍っている内に笑顔を深める彼ら二人を見ていたらつい思い出してしまったのだ。
くるくる廻る笑う姉の姿だった。もう会えないという事実は何よりも彼女を寂しくさせる。
練馬区のカーテンさんもくるくる廻る。彼女が躍れば躍るほど悲しみを深めていく。
まるで世界の真理のように。
おわりに
いつも通り、何書いてるんだ、ですよね。
頭に浮かぶこういう世界観を大事にしたいと思っています。
何かに応募するとかだったら書けない世界だけど、書いていて面白いし込めた想いのかけらみたいなものがどこかで誰かに繋がってほしいなと思う願望があります。
がんばります。
https://tokeichikura.com/sousaku03