創作ショートショートです。
今回は7000文字くらいの短編を毎週末に分けて投稿する予定です。(4回予定)
Contents
はじめに
この『ダメ男のキャッチボール失敗』はタイトルも違いますが、何年も前ですが文〇社のある企画に応募して入選したものが元になっています。
入選したからといって副賞があるわけでもなく、ただその企画をまとめた一冊の本に短編を含めてもらいました。
初めてゲラを交換して誤字や内容を確認してできた一冊の本が届いた時、やはり嬉しかった記憶があります。
時間が経って思う部分がたくさんあったので設定も含めて大幅に改稿して今回投稿しました。
今回は1000文字ちょっとで2,3分で読める①です。
若い夫婦のキャッチボール物語です。
『ダメ男のキャッチボール失敗①』
しくしく泣くばかり。
そんな最近の美和子を見るのは辛いものがあった。よく泣くようになった。
原因は分かっていた。私のせいだった。
美和子は「寂しい。寂しいよ」と言う。
「子どもがいないからどうにでもなるよね」と別れを暗示させるような独り言をこぼす事もある。
結婚して3年目、私は東京から仙台へと異動になった。望まない異動だったが、拒否することもできない異動だった。いや、拒否することができないとは職場の空気という感覚的な話でただの言い訳なのかもしれない。
そして私は単身赴任など考えられなくて美和子を連れて仙台へ引っ越した。
仙台への異動を切り出した時、私は早口でまくしたてるように美和子を説得したのだと思う。そして美和子も本心はどうあれ頷いた。
異動すること自体が悪かったわけではなかったのだと今になって思う。
悪かったのはこの異動を切り出した時から私は自分の気持ちばかりで相手の、美和子の表情を見なくなったからだ。
それから美和子の感情に改めて気づいたのはしくしく泣くばかりの美和子を見てのことだった。
改めて気づいたところで私は今さらどうすればいいのか分からなかった。新しい部署での慣れない仕事で疲れも溜まり、家に帰っても美和子の話をろくに聞かず、2人の距離はますます開いているように感じた。
別れるか、もしくは美和子だけ東京へ帰した方がいいのかもしれない。
そういった考えが浮かんでは今度は私自身の寂しさからそれを消した。
時間が経つにつれて美和子と会話することも怖くなって夫婦の会話というものは極端に減っていくのだった。
静かな家の中で空気の重みだけが増して私達の間に積もっていく。そして私はその重みに比例するように美和子のかけがえのなさを感じていった。
結局はまた自分の気持ちか。頭の中をぐるぐると自分を否定する自分に追いかけられて、私がしたことは美和子の顔を見るということだった。
私は思い切って有給休暇をとり連休を作った。職場の上司は「この時期に?」と嫌な顔をしたが美和子は大事でも上司は大事ではないと思うと「はい!」と強く押し通すことができた。
しかし、家に帰って美和子に「来週有休使って連休作ったよ」と言っても、
「あ、そう」
と声が届いていないような返答だった。「好き」の反対は「無関心」という言葉もある。美和子はまさしく私に対して無関心だった。
そして異動を切り出した日のことを思い出す。私こそが美和子の気持ちに関心を向けられてはいなかった。(続く)
終わりに
何を思ってこの内容を書き始めたのかは覚えていません。でも書いていて楽しかった記憶はあります。
同じくらいの分量で②を投稿するのでもしよろしければ読んで頂けたらとても嬉しいです。