「王様のブランチ」で大反響の話題騒然ミステリー!
帯には「本書のご使用法」が書かれています。
・まずは各章の物語に集中します。
・章末の写真をご覧ください。
・隠された真相に気づきましたか?
・「そういうことだったのか‼」
だまされる快感をお楽しみください。※再読ではさらなる驚きを味わえます。
何これ?と思いますよね。でも読んでみたら納得です!
込み上げる興奮と面白さで誰かにこの小説について話したくなります。
驚きと共に何度も楽しめる超絶技巧のミステリーです!
簡単なあらすじ・説明
4つの章立てで描かれる衝撃のミステリーです。
どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックがあります。
どの章にもラストページの後に再読すると物語に隠された本当の真相が浮かび上がります。
さらに終章を読み終えるとこれまでの物語すべてが絡み合い、新たな真実にたどり着く大仕掛けが待ち受けています。
「ここ分かった?」と読み終えたら感想戦したくなること必至の体験型ミステリー小説です。
ここからネタバレ注意!
いけないの感想(ネタバレ)
弓投げの崖を見てはいけないの感想
初読でいくつも謎が浮かんで戻りながら一つ一つ事実を確認しながら読み進めました。
一文も見落とすことができず、少しずつ明らかになる謎に驚きつつ、でも明らかになってもその事実も半信半疑で最後まで読みました。
はじめに起きる残酷な事件での描写もぼかされているから正直、分かりづらいと思いながら読んでいました。
でも途中で「誰が亡くなったのか」が明らかになった時、この小説のあえての技巧なのだと分かり、一文ずつよく考え読むことに決めました。
時間や場所を整理しながら読んでいるとまるで自分が刑事のような気がしてきます。
文章による仕掛けを楽しむという意味で一番の楽しみが込められているのは、最後の事故で誰が「路傍でねじれた身体は、もうぴくりとも動かなかった。」のかというところでしょう。
文章だけでは正直わけがわからなくて章末の写真(ここでは地図)を見て始めてこの一種のゲームは始まりました。
撥ねたのは吉住、撥ねられた可能性がある人物は邦夫、隈島、森野雅也の3名の内の誰かです。
地図を見ながら根拠になる部分を付箋つけて見比べて答えを出しました。
根拠が合っているかは不明ですがここに記します。(合っていなくても勘弁してください)
※下記ボックス内はかなり踏み込んだネタバレです。ご注意下さい。
①車で撥ねてしまった吉住は白蝦蟇シーラインから分岐した道を、南に向かって走っていた。そして、
しかし、ゆかり荘の前を抜けようとしたとき、突然フロントガラスの右側から人影が現れ、鈍い激突音とともに闇の中へ弾き飛ばされた。(P.73)
と書かれています。ゆかり荘の対面している道から通りへ飛び出してきたということですね。
正面の道は網目のような道を曲がっていくと商店街へと繋がっています。
②邦夫はゆかり荘から出て白蝦蟇シーラインの方へと向かったということ。
もし邦夫が撥ねられたならば①でフロントガラスの左側から人影が現れたことになります。
これで邦夫の線は消えます。
③森野雅也は、
このまま商店街の南端まで行き、左へ曲がればアパート前の路地に出る。(P.77)
とあります。地図で見ると商店街の南端から左に曲がってアパート前の道に出た場合、ゆかり荘から少し南の路地に出ます。事故は「ゆかり荘の前を抜けようとしたとき」起きているのでそぐわない。しかも弓子がゆかり荘2階の手すりから状態を乗り出した時に視認しているので離れた場所での事故と考えるには無理があります。
そのため、森野雅也の線は消しました。
③隈島は商店街の真ん中で立ち尽くしています。真ん中は地図で言うと「スーパータイヘイ」近くでしょう。
そして山車の向こうには「スーパータイヘイ」の看板が見える状況です。その状況で、
そう考えると同時に、隈島は山車の背後を抜けて路地に駆け込んでいた。(P.84)
わけです。
地図を追っていくとタイヘイの後ろの路地からいくらか曲がっていくとゆかり荘前の路地へ出ることができます。それはちょうどゆかり荘対面の道からです。
よって、隈島が森野雅也を追いかけてゆかり荘前の路地へと飛び出た瞬間にスピードを上げていた吉住の運転する車に衝突したというわけです。
一つずつ根拠を拾って自分で答えを出す作業はまさに
体験型ミステリー
で今まで感じたことのない面白さを感じました。
その話を聞かせてはいけないの感想
いじめが絡んだ子どもの世界の話は苦しいです。
時折出てくる妖怪のような存在はホラー感があり、「弓投げの崖を見てはいけない」とはまるで違う雰囲気を感じながら読み進めました。
珂のハッピーエンドを祈りながら読み進めていたので彼が悲しい運命を辿らずに本当によかったです。
ここでも隠された真相はあって、最後の写真がなければ妖怪じみた風が珂を守ってくれたのだと思って終わりなのですが、ニュース番組で出ていた文具店のおばあさんとその甥っ子の写真の隅には車に乗り込む子どもの姿が。
ずっと恩返しさせてくれと言っていた山内の姿が頭に浮かびました。
尋ねるような顔をして、それに応える珂の姿はそれから起きる出来事は身を守るためとはいえど重い出来事なのですが、ほっとしてしまった私がいました。
最後に祖父から教えてもらった呪文を唱える珂の姿はほっとしていた私に不気味な余韻を与えました。
絵の謎に気づいてはいけないの感想
第二章までで段々この小説の面白みの感じ方(帯に書いてある「本書のご使用法」)が馴染んできてやたらめったら文章を疑いながら読んでいました。
それでもだまされてしまいました。
この第三章が一番、読み返した時に発見が多かった章です。
竹梨の行動は終わりに分かる真実を踏まえて読むと全て筋が通っていて複雑な心情模様が浮き上がります。
しかも竹梨は第一章から登場しているので彼が十王還命会に抱いている想いと合わせるとこの小説は一つの連作短編集として物語としての面白みを感じました。
第1章から竹梨は妻の死に囚われていたことになります。
最後の写真は隠された真相とまではいきませんが物語中に出てくる絵との違い(スマートロック部分を塗りつぶしている)を知り、その場面の竹梨の驚きとあせりのような感情が滲んでいる描写を読むとじわっと面白さを感じられました。
宮下志穂が亡くなった動機は私にははっきりわかりませんでしたが、個人的には第一章で宮下の指示で吉住が車のスピードアップしたことを発端にいざこざと、殺した後はもみ消しがあったのではと想像していました。(自信はありません)
いけないの感想・まとめ
終章「街の平和を信じてはいけない」では竹梨の罪も邦夫の罪も明るみには出ない形で物語は終えています。
最後の写真も邦夫の罪の告白を無にするものでした。
これについての感想はきっと分かれると思います。
街の景色を見ながら珂と山内は「いいよね」と会話を交わします。何がというと、
「平和っていうか」
山内も太陽に鼻先を向けて声を飛ばす。
「ね、平和っていうか」
人の死に触れた人たちが平和を語る姿は奇妙です。
まさにタイトルの「街の平和を信じてはいけない」なのですが、薄い膜のような平和の中で生きている世界というのはこの小説のだけではなくて、実は現実もなのかもしれません。
全部の章を通して、物語の深みにも感じ入るところがありましたし、騙される快感、分かった時の快感などミステリーを体験する楽しさを存分に味わうことのできた作品でした。
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