小説

高橋弘希『送り火』【第159回芥川賞受賞作品。少年たちが暴力の果てに見たもの】

第159回芥川賞受賞作品です!

帯に書かれた本文の引用文、

これはいったい何だろうと思う。

夢の芽がすくすくと成長し、緑葉を茂らせ、撓わに暴力を実らせている。

でも歩にはもう、目の前の光景が暴力にも見えない。

黄色い眩暈の中で、ただよく分からない人間達が蠢き、

よく分からない遊戯に熱狂し、辺りが血液で汚れていく。

暴力的で不安を煽るような引用です。

そして実際に小説を読んでみてこれは「いじめ小説」だということが分かります。

いじめる側、いじめられる側、傍観する側とそれぞれの想いはあれども誰も楽しんでいる感じはなくてそれぞれに恐怖があります。

その恐怖が出来事の節々の描写で伝わってきます。

漢字や言葉の使い方とか硬めで読みにくさはありますがそれが迫真とも言える雰囲気に感じられます。

読んで気持ちが晴れることはありません。ただこれが表現だとも思います。

文字があって、文章があって、読者に何かを訴えるような表現があります。

読み終わって感じることがある小説は価値があると私は思っています。

だから私はこの小説を読んでよかったと思うし、これから先も例えハッピーエンドではないと分かっていても手に取るのだと思います。

あらすじ

父の転勤で青森県の廃校寸前の中学校に転向してきた中学生3年生の男の子・歩を中心に据えた話です。

三学年で全生徒12名1クラスの中には遊戯と称して理不尽な暴力があり、歩は目の当たりとしていきます。

歩は中立的な自分の立ち位置に身を置きながら時折噴出する暴力の中で過ごしていきます。

ここからネタバレ注意。

送り火の感想(ネタバレ)

歩以外でたった五人の同級生の中に立ち位置は明確に分かれています。

稔は集落の精肉店の息子で、他の4人の内3人は兼業農家、1人は医者の息子です。

稔は商売人の跡継ぎとして住民に嫌われないようにして店が続く限り集落で生きていくしかありません。それが稔を一番弱い立場にしています。

グループの中心である晃は花札のゲームのいかさまでいつも稔を負かします。

そしてジュースや食べ物をみんなにおごらせます。

恐らく稔の親もおそらく気づいているけれども狭い集落の顧客の息子が同級生ということで我慢するしかありません。

なかなか読んでしんどい設定です。

荒廃に向かう村が舞台なのでなおさら悲壮感漂う雰囲気で物語は進みます。

歩はうまく中立的な立場に置くことに成功します。

歩の考えは何も関係のない読み手の私からすると卑怯です。晃の見方であり、時には稔の気持ちにも寄り添うような態度をとる。

でも、もし物語の中に自分が置かれたらどんな振る舞いをするのかと考えたらどうなのか分からなくなります。

目の前で圧倒的な暴力が繰り返し行われているのを見て、明日からは自分の身に降りかかると分かっていながらグループの多勢に立ち向かうことができるのでしょうか。

最後の場面では先輩からの暴力に耐えかねて爆発する稔の姿が描かれます。

歩は稔を押し退けて叫びます。

「僕は晃じゃない! 晃ならとっくに森の外へ逃げてるんだよ!」

それに対して、

稔は腫れ上がった瞼の奥の、細長い白目の中で瞳を動かし、

「わだっきゃ最初っから、おめぇが一番ムカついでだじゃ!」

再び円盤が振り下ろされ、歩むの掌を深く裂いた。

当事者が動ける動けない関係なく、暴力を受けている側に負の感情は溜まっていきます。

最後に描かれる人の形をしたマガゴトを焼いて村の外に流す他者排除の習わしが重なり物語が終わります。

圧倒的な負の雰囲気を感じ取って本を閉じました。

終わりに

救いがないように思ったし、読み終わって清々しくなるようなこともありませんでした。でも何かを訴えようとする文章の力を感じます。

おススメというよりも読んで欲しい話であることは間違いないです。

誰にと言われると難しいけど、もし中学生の自分に出会って本を勧めるなら読んで欲しい本の中に入れると思います。鈍感に毎日を過ごさないようにです。

でも中学生にというのは卑怯ですね。今の私が鈍感に毎日を過ごさないようにと改めて思います。

ABOUT ME
いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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