2019年本屋大賞ノミネート作品です!
平野啓一郎さんは2016年刊行『マチネの終わりに』が二十万部を超えるロングセラーとなり、さらには今年の秋に福山雅治さん、石田ゆり子さん主演で映画化されることで今でもなおその作品は脚光を浴び続けています。
この『ある男』はそんな『マチネの終わりに』から2年経ち、刊行された長編小説です。
そしてこの『ある男』は本屋大賞ノミネートされ、『マチネの終わりに』と合わせて今年、最も大注目されるであろう作家さんの一人です。
「愛していたはずの夫はまったくの別人だった」という帯の文言。今まで読んだことのなくて、しかも奥深い物語を感じさせる紹介に引き寄せられます。
Contents
あらすじ
弁護士の城戸はかつての依頼者である里枝から「ある男」について奇妙な相談を持ちかけられます。
里枝には「大祐」という夫がいました。
ただその「大祐」は不幸な事故で命を落としました。
悲しみに打ちひしがれている里枝は命を落とした「大祐」が全くの別人という事実を知ることになります。
では「大祐」として過ごしてきた「ある男」は何者なのか、城戸を中心に追いかけていく話です。
ここからネタバレ注意。
ある男の感想(ネタバレあり)
これは「ある男」の物語であり、城戸の物語であり、里枝の物語でもあります。
それだけではなくて里枝の子どもや、大祐や、その他様々な人物それぞれの物語です。
それくらいの厚い内容です。
また、物語中扱われている戸籍や在日朝鮮人や死刑についてなど重く簡単に読み流せはしない部分も沢山あります。
どれも簡単に片付けるのではなく真正面から立ち向かっているので立ち止まって考え込みながら読みました。
それに込み入った内容もあるので理解に時間がかかった場面もあります。
だから好き嫌いは分かれるかもしれません。
恋愛の形も大人というか、どこか割り切っているというか、達観しているというか。
城戸の夫婦関係も、大祐を探す中で出会った美涼とのやりとりも、描かれていませんが美涼が元大祐と二人で出会うということも、どこかはっきり幸せという形はなくて愛とか恋とか人間関係の中での一つの要素なのだなと私は思いました。
本物の愛って何なんでしょうね。望む関係を築くためには自分自身を納得させる作業も必要なのかもしれません。
物語が進み、戸籍交換という事実が明らかにされて、しかもそれが一度の戸籍交換ではなく二度。勿論戸籍交換した相手の名前を引き受けることはそれまでのその人の人生を引き受けること。
登場人物の考えること話すことは重厚で、でもどこかオシャレに感じられて(関係ではなく)そんなやりとりができることに憧れも感じながら面白く読みました。
読み終わって、本当に読んでよかったと思いました。
終わり方も私にとっては最高で、読み終わった電車内で震えてました笑
最後の文章、「外で読むな注意!」という付箋を付けていて欲しいほど素敵な文章でした。
彼はもういない。そして、遺された二人の子供は随分と大きくなった。
その思い出と、そこから続くものだけで、残りの人生はもう十分なのではないか、と感じるほどに、自分にとっても、あの三年九ヶ月は幸福だったのだと、里枝は思った。
終わりに
どれも真剣に描かれていて、単純なハーピーエンドでも悲劇でもありませんが、深いところまで潜るようにして伝わる優しさや悲しさや愛しさがあります。
好きになる人物も沢山いるし、嫌いになる人物もいます。
読み終わって疲れた、でもよかった。
どっぷり物語に浸かりたい人にオススメしていきたい。