小説

原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』感想【奇跡の美術館物語】

原田マハさんの最新アート小説!

日本に美術館を創りたい。

その夢ひとつのために生涯をかけた人々の物語。

叶えたい夢を追いかける不世出の実業家・松方幸次郎の周りにはタブロー(額縁に入った絵)に魅せられた男たちが集まります。

熱くて、読み終わればその熱は伝わって自分自身も目の前の物事に取り組む力になるような一冊です。

しかもこの一冊は史実を元にしたフィクション。実際に上野にあるあの国立西洋美術館の誕生秘話でもあります。

(6月11日より松方コレクション展開催!)

松方コレクション展、レポート【美しき愚かものたちが愛したタブロー】 国立西洋美術館開館60周年記念「松方コレクション展」に行ってきました。 「日本の芸術家、人々のために美術館を作りたい――」...

現実にも繋がる熱き「愚かものたち」の重厚な冒険は嘆息と熱い気持ちは今年絶対注目の一冊になるでしょう。

あらすじ

日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、ロンドンとパリで絵画を買い集めた松方は、実はそもそもは「審美眼」を持ち合わせていない男でした。

絵画収集の道先案内人となった美術史家の卵・田代との出逢い、クロード・モネとの親交、何よりゴッホやルノアールといった近代美術の傑作の数々によって美に目覚めていく松方だが戦争へと突き進む日本と国際情勢によって松方の夢は無念の気持ちと共に霞んでいきます。

夢一つのために生涯をかけた不世出の実業家・松方。戦時下のフランスで絵画コレクションを守り抜いた孤独な飛行機乗り・日置。松方の夢の周りにいてアートに並々ならぬ想いを持っている美術史家・田代。講和に向けて多忙を極める首相・吉田茂。

彼らは世界でも有数の「美術館好き」と言われる日本人です。

そんなアートへの探求心の礎を築いた男達が美しき理想と不屈の信念で、無謀とも思える絵画の帰還を実現させた「愚かものたち」の冒険が胸に迫る物語です。

 

ここからはネタバレ注意

美しき愚かものたちのタブローの感想(ネタバレ)

美しきタブローに魅せられた人々の絆

読み終わって「いい作品だった」とまず思いました。何でこんなに面白かったと思ったのか考えました。

まず思い浮かんだのはタブローに魅せられた人々が繋がっていく様子です。

この小説にはたくさん個性豊かな人物が登場します。

松方を始め、田代や日置もそうですが、首相の吉田茂、かつての田代の親友・サル、モネなど、上げたらきりがないくらいの濃い人々です。

でも全員がタブローに憑りつかれていると言っても言い過ぎではないほどに魅了されている人たちです。

田代とサルのタブローを巡る話し合いは痺れました。タブローの大きな価値や松方の想いがあるからこその緊迫感です。

それでも一歩ビジネスライクな話し合いから外れてみれば並々ならぬタブローに魅了された同志なのです。

松方も田代も日置もタブローとの出会い方も好きの方向も違うのに松方の思い描く夢についてはとても強い絆で繋がっています。

日本に美術館を創りたいという夢です。

ただの美術館ではなくて松方が創ろうという美術館を追う姿に田代が惹きつけられていきます。

――すごいものになる。

明るい予感が夕映えのように田代の胸に広がった。

この人が創る美術館は、きっとすばらしいものになる。

そのために、力を尽くそう。自分もタブローを心で見よう。この人と、ともに楽しもう――。

並々ならぬ想いを共有していく人々が大きな目標に向かっていく様は興奮します。

その共有している想いの中心にあるのが美しきタブローなのです。

なんて美しくて熱い小説なのだろう。

だからこの小説の一対一の会話はどれも大好きです。

田代とサルの会話。松方と田代の会話。松方と日置の会話。

熱くて美しさを感じる会話なんて早々味わうことなどできない。

美しきタブローの描写

私は絵について詳しくありません。

でもこの本で描かれた小説が美しく感じました。挿絵があるわけでもないのに絵の描写の美しさに胸が一杯になってしまったり、この小説ではないけど音楽が鳴っていないのに演奏描写で涙を流してしまったり……活字の力なのでしょうか。

「……なんて言うか……私は……いや、何も言っても追いつかない。私は、感電した。フィンセント・ファン・ゴッホという名の雷に」

初めて目にしたゴッホの絵。――ぐうの音も出ないほどやられてしまった。それは、まさしく芸術の神の打擲であった。

〈アルルの寝室〉の絵の具体的な描写が後に続くのですが、この本当に感動したものに出会ったセリフと文章を見て人物の興奮が乗り移ったみたいに感じてしまうのです。

打擲(ちょうちゃく)の意味は読んでいる時分からないというのに「神の打擲なんだ」と何となく納得させられてしまうような説得力のある文章で〈アルルの寝室〉だけでなく、モネの〈睡蓮〉やルノワールの〈アルジェリア風のパリの女たち〉も活字を追うだけで最上級の美しい絵が頭に広がるような想いがしました。

ちなみに打擲(ちょうちゃく)とは「人をたたくこと。なぐること」です。芸術の神になぐられたと思えるくらいの衝撃だったということですね。

なので絵を知らない人でも熱い人たちに感情移入させられていく内に知らぬ間にタブローに傾倒してしまうような迫真の描写にくらくらしました。

登場人物の想いがぐっと伝わるような文章って本当に面白い!

美しき愚かものたちのタブローの感想まとめ

奇跡が積み重なった国立西洋美術館の誕生秘話。

無謀とも思える絵画の帰還を実現させた人々の人生と信念が描かれています。

第二次世界大戦前後の激動の世界で形は違ってもタブロー(額縁のおさめられた絵)に取り憑かれた男たちの姿が熱い。

なによりも全てを注ぎ込めるというのでしょうか。そんな人達の物語なので読んでいて自分も影響されてもっともっと頑張らなきゃと思うような気持ちにさせられます。

あと加えて時代背景がある小説なので吉田茂の外交手腕や交渉事、日置が絵を隠した家に踏み込まれそうになる場面などスリリングな展開に唸ります。

長編ですが読むのはあっという間でした。

美しき愚かものたちのタブローを読み終わって感じた〇〇

読み終わって知った大きなニュースでした。

国立西洋美術館では6月11日から松方コレクション展が!

じゃあ、〈アルルの寝室〉が見れるの?

はい、見れるらしいです!

小説に出てきた絵画は活字で私自身を興奮させる魅力がありました。

絵画に接する喜びを知っている原田マハさんだからこその文章だと思います。

すごいし、ありがたい。

私は全く美術展に興味なかったけど原田マハさんの小説を読んで影響されて美術展行っていいものだったと思えた経験があるから。

そして今回もこの小説を読んだらぜっったい松方コレクション展行きたい!!笑

それくらいこの小説の物語は熱くて、人生が描かれてる分深いです。人生を変えるほどの力を持った絵画との出会いは濃いし、その絵画自体にも興味を持ってしまいます。

とても旬な小説でしかも読んで自分も何かにとことん力を注ぎたくなるような気持ちにさせてくれる一冊でした。

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一蔵とけい
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社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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