本屋大賞受賞作家・瀬尾まいこさんのエッセイです。
ただのエッセイとは違います。
瀬尾まいこさんは作家デビューしてから中学校の教員として二足の草鞋を履いていた時期のエッセイです。
教員はサービス残業が大変とかちらほらニュースで聞きますけど、それでも採用試験で合格して正職員として勤務することは都道府県によってはかなり狭き門です。
瀬尾まいこさんも『卵の緒』で『坊っちゃん文学賞』を受賞したのちも採用試験に挑戦し正職員になった経歴を持っています。(現在は退職されています)
このエッセイには教員としての仕事の面白みややりがい、大変な部分がエッセイとして綴られています。
教員になることを考えている方にとても大きなモチベーションになる本だと思うし、作家・瀬尾まいこさんの雰囲気を感じられる温かいエッセイでもあります。
『ありがとう、さようなら』の説明
嫌いな鯖を克服しようとがんばったり、走るのが苦手なのに駅伝大会に出場したり、生徒に結婚の心配をされたり、鍵をなくしてあたふたしたり……。
「瀬尾先生」の奮闘する日常が綴られるほのぼのエッセイです。
瀬尾まいこさんが作家デビュー直後から3年半にわたって「せんせい」として生徒の頑張っている姿を見て自らも成長しようとする姿が書かれています。
それはまた小説世界にもつながっているように感じるエッセイが待望の文庫化されました。
ありがとう、さようならの感想
これほど一人の教員の心情が綴られたエッセイはないのではないでしょうか。
そもそも教員という職業と二足の草鞋を履くという現代作家は聞いたことがありません。
教員として生徒会担当をしたり、卒業式を迎えたりすることについても書かれていますが、人生初めてマッサージを受けたり、交通事故にあってしまったりといった日常生活についてのことも赤裸々に綴られています。
これを読んでいると瀬尾まいこさんはとても生徒に近い心情を持つ人だと思いました。
そして生徒を見て自らが成長するという姿もありますが、先生が一所懸命に過ごす姿を見て生徒も引っ張られているのではないでしょうか。
今現在、色んな先生のドラマや映画の名作があります。
それらはわりと名言とセットで描かれているものが多いような気がします。
でも実際の先生がいくら名言を言ったところで生徒に響くことはありません。
だからドラマを見て「いいことを言う」と思うのはいつも生徒の世代ではなくて親世代だと思います。
それよりも音楽とかパフォーマンスだったり、小説とか漫画の物語だったりするものに影響されて思春期の生徒たちは成長していくように私は考えています。
「背中を見て」という表現は古臭いかもしれませんが多少失敗している姿があったとしても行動が印象に残っている先生って素敵です。
そんな日々のつらつらが綴られていて2組が卒業した後も新学年でがんばろうという言葉もあって上を向いて進む瀬尾先生の姿が私にも温かく心に残りました。
ありがとう、さようならを読後思ったこと
私は教育学部が強い大学を出ていて知り合いに現役の教員の方が何名かいます。
私自身、中学校高校教員免許を取得して高校に教育実習に行きました。
やはり知り合いに話を聞いてもサービス残業の体質はあるし、生徒との人間関係、教員同士の人間関係は複雑だという話を度々耳にします。
よくニュースで教員の不祥事が取り上げられますが私の知る教員は学級運営や教育について日々考えて全力を尽くしています。
そういう生の話に近いエッセイです。
それにしても瀬尾まいこさん自身が各エッセイの項目について始めはマイナスから入りながらもそれを乗り越えたり、最後には前向きにとらえられるようになったりする文章が多いです。
これは小説世界にも通じるのではないでしょうか。
読んではっと上を向くような、上を向いて前に進みたくなるような、心の栄養素がにじみ出るような文章を書く作家がどんな作家なのか知ることができたような気がします。