創作

『てがみとひかり』【創作ショートショート】

はじめに

創作ショートショートです。

1000文字ほど、2,3分で読める分量です。

『てがみとひかり』

コップの理論というものがある。

その人の抱えるものが一杯の状態でいくら言葉を投げかけたとしても胸には届かず溢れ出てしまうという理論だ。

だからその人に何かを伝えたいと思ったら、伝えたい気持ちばかり先行させるのではなく相手をよく見て必要であればその人の話を聞いてコップの水を減らしてあげて伝えることが大事だ。

私は営業事務として勤めていたOL時代、叱咤激励される新入社員への上司の言葉から学んだ。そしてもはやコップから溢れて出続けている新入社員の姿を見て「上司よ、それはおまえが学べ」と思ったものだった。

何でいまさらそんなコップの理論なんて思い出したのだろうか。

分かっている。それは手紙を書く私の姿を俯瞰して見たからだ。

私は週に一度手紙を書いている。姉に向けてである。

姉との仲は良くも悪くもなかった。だけど、私はもっと姉に近づきたいとずっと思っていた。

でも近づこうと思えば思うほどうまく寄り添えないのも事実である。合わないパズルのピースを無理やりはめ込もうとしているような感覚である。

強くなろうと思った時代もあった。それは母や姉を守ろうとした結果だった。男の子のように髪を短く刈り上げた時代もあった。よくいえばボーイッシュ、悪くいえば自分自身に対しての雑さに理由を付けただけだった。強さの象徴は男などではないというのに。

そして大学を卒業して就職してそれなりに苦労して仕事に慣れてくれば新しく入ってくる新入社員を他人事のように眺めてそのうちに退職した。これはやりたいことではない、と。

姉が亡くなっても雑さだけは依然として健在だった。

もう少しがんばればよかったかな、なんて後からお金に困りながらバカみたいに少しの後悔をしている。

そして私はこつこつ手紙を書いている。

私のコップの水を減らすように手紙を書いている。

そのままにしてある姉の部屋の机の上で、カーテンの隙間から入り込むわずかな光を頼りに手紙を書く。ひらひら、時折ぶわっと窓から差し込む風がピンクのカーテンを揺らしている。

そういえば姉はヒーローが好きだった。カーテンマントでヒーローの真似をしたら「すきすき」なんて言葉をくれた。散歩が好きだった。時々どこかに走っていこうとする姉の姿は気持ちに正直で自由に見えた。自由さは雑さを超越する。私は何に縛られて雑さが自由に見えないのだろう。

姉が亡くなった時、私は何を思っていいのか分からなかった。何を思うのが正解なのかと考えて、そんなことを考えている私自身に吐き気がした。

私は手紙を書き終える。できる限りの雑で自由な気持ちを姉にしたためて封をしてそれをそのままになっている姉の部屋のタンスに放る。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。秋めく光で歪な台形の光に当てられて寝転びながら私は少し泣いた。

終わりに

届かない手紙というネタは大学時代に児童文学で書いた思い出があります。

合評という形で読み上げてダメ出しを行うのですがよく皆の前に出せたなぁと思う話ばかり笑

今のこのブログも同じっちゃ同じなんですけどね。

短い話のエピソードは一つ一つ完結ですがそれぞれ繋がっています。

もしよろしければ他のショートショートも覗いて頂けたら嬉しいです。

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いちくらとけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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