小説

ドリアン助川『水辺のブッダ』感想【ふたりの”生きる”感動長編】

ドリアン助川さんの最新作です。

ペンネームがなかなかのインパクトですが、放送作家としての経歴も持ち、著書も多数。

また2015年に発表した小説『あん』河瀨直美監督、樹木希林・永瀬正敏主演で映画化され、世界12言語で翻訳出版され国内外でベストセラー、しかも国際的な文学賞も受賞しました。

そんなドリアン助川さんの新時代最初の感動長編です。

あらすじ

多摩川河川敷で仲間のホームレスと生活を共にする望太は誰にも話せない過去を持っています。

一度は死を選びながらも彼らに救われ、やるせない想いを抱きながらも生きています。

また望太の住んでいる地域から遠くない街で女子高生の絵里は世の中に対する怒りとむなしさを抱えて暮らしていました。

家族の中での疎外感に耐えられなくなったころ、ある男と出逢い、事件に巻き込まれてしまいます。

二人の視点で描かれる場面が交互に進み、次第にふたりの過去が明かされていきます。

世の中の片隅に懸命に生きる人々の傍らに立つドリアン助川さんが描く、ふたりの”生きる”物語です。

 

ここからネタバレ注意

水辺のブッダの感想(ネタバレあり)

生々しく陰のある登場人物たち

望太、絵里。

この二人の視点で物語は進んでいきます。

それにしても「これでもか」というほど過酷な状況が取り巻いています。

不条理な事柄も多くて読んでいて本を閉じたくなるような場面もあります。

特に絵里が巻き込まれる状況は私にとって何度も手を止めなければ見ていられないほど苦しいものでした。

友達だと信じていた学生にドラッグを飲まされ暴行されたくだりは苦しい。その仕返しの先でハメられて起きた警察官とのやりとりの話はもっと苦しい。

この小説自体が生々しくて陰のある場面で満ちています。

善人ばかりが出てくる話ではなくて、善人でも抱えているものはあるし陰がある人物で成り立っています。

だからこその説得力というか物語のパワーを感じました。

ブンさんはとても前向きにさせてくれる言葉をくれる人物なのに性欲だったり、妄想(?)で旅をしていたり、やはり一筋縄でもいかない。

話の先がまるで読めない。

苦しい状況に手を止めたくなってしまってもすぐ読み始めてしまうのは、そんな生々しい登場人物の中で望太と絵里が自分を取り巻く環境の中で必死に息をしようとしているからです。

何かを求めているような二人の気持ちが流れていく中で少しずつ過去が分かって二人の繋がりが明かされていくストーリーは段々と読むスピードが上がっていく面白さがありました。

繋がる祈りと流れのラスト

 心が、心でなくなり、流れやきらめきに変わる瞬間が近づいていることを望太は予感した。いよいよそのときが来たのだ。望太は土手を歩く絵里に向かって念じた。

「泣きたいことがあったら、川にそっとつぶやきなさい。君の涙は、お父さんが海まで流してあげる」

涙の雫が作る水面への波紋。そして続けざまに波紋を作りながら川の流れに同化し、命を終えていく場面は悲しいのだけど美しいです。

そして今まで自分が殺人犯だという気持ちから娘を想うことすらできなかった望太が最後になって絵里の姿を見て念じ、祈る姿もまた本当に悲しいのだけど美しく、救いを感じました。

最期の絵里の場面で、

 どうしようもなくなったら、二人で死ねばいい。つい数日前にそう決めたことが、絵里にはなぜか遠く思えた。あれは違うと思った。どうしようもなくなったら、二人で泣けばいい。ここにやってきて、川に向かって愚痴ればいい。海まで流してもらうように文句を言えばいい。それだって、人間なんだ。

繋がってよかった。

二人は実際に会話する場面もなかったけど心からよかったと思えるラストでした。

水辺のブッダの感想・まとめ

登場人物それぞれの背景が深く、何かを抱えている人が集まっているような作品でした。

そして多摩川河川敷で路上生活を送っているホームレスを襲う「一般人」の暴力は耳にしたことのある話題で現実味を帯びた世界が広がっています。

その他にもDVだったり、ドラッグや性的依存など、単純に笑い飛ばすことのできない問題がこの小説の中で描かれていてただ流し読みできません。

夢やラストの場面など抽象的な描写は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、私には現実の重い場面と、きらめくような祈りが水面で光るような場面は読んでいて美しかったです。

最後に新しい命と二人で水面の光を感じる姿がまるで望太もそこにいる気がしました。

けして読後感がすっきり晴れ晴れというわけではありませんでしたが、けして暗くなく心に残る作品となりました。

水辺のブッダを読んで感じた個人的〇〇

先日も川崎で殺傷事件が報道されました。浮浪者に対する殺傷事件もインターネットで検索えば数多く出てきます。

また数年前のやまゆり園で起こった知的障害者施設での殺傷事件も改めて報道を見ました。

この小説で扱われているDV問題なども一時よく報道されていた内容です。

私はテレビやネットニュースを見てなんとなくそういう各内容について知ってはいるけど、どこかで流れていってしまっているところもありました。

だから、目を背けなくなるような場面に出くわした時にその都度感情を動かさせてくれた『水辺のブッダ』を読んでよかったです。

今、私は落ち込むことも多いのですがそれでも絵里の思った「どうしようもなくなったら泣いて愚痴って文句を言えばいい」って言葉は私自身にも響いて力になりました。

ABOUT ME
一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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