創作短編です。
前回投稿した『ダメ男のキャッチボール失敗③』の続きです。
今回で完結です。
Contents
はじめに
今回も1000文字ちょっとで2,3分で読める④です。
若い夫婦のキャッチボール物語。
始めからはこちら。
『ダメ男のキャッチボール失敗④』
平日の公演にはほとんど人はいなかった。その公園は遊具一つない、公園というよりもだだっぴろい広場だった。いくつかあるベンチに座って読書をする人、老夫婦が散歩している姿が似合うような公園だった。
空には大きな雲の塊が一つ浮かんでいるだけで、気持ちのよいすがすがしさを感じた。これで美和子の笑顔があれば申し分ない。私はなんとしても美和子の笑顔が見たかった。
こんな私にも作戦はあった。バッグの中にはグローブとボールがあった。本当は旅行先で、と思って準備したものである。会話がなくてもキャッチボールでお互いのコミュニケーションがとれるのではないか、と。
私はバッグの中からグローブを出して、美和子に渡した。
「キャッチボールをしよう」
露骨に美和子は嫌そうな顔をした。その顔にくじけそうになったがふんばった。
「絶対、面白いから」
後ろ歩きで距離をとった。美和子の表情は硬かったがとりあえずグローブをはめてはくれた。
私はボールをゆっくり投げる。ボールはワンバウンド、ツーバウンドして美和子に届く前に止まってしまった。美和子は何歩か歩いてボールを拾う。
私の肩はずきりと痛む。
今度は美和子が投げる。
キャッチしようとグローブを構えるがボールは私のグローブの先に当たって横に転がった。そして次に私が投げると美和子とはまるで違う方向にボールは飛んでいってしまって美和子は駆け足で取りに行かねばならなかった。
そう、私は運動音痴だった。キャッチボールくらいできるだろうと思い、作戦の一つとしてグローブとボールを買ったことはよかったが考えは非常に甘かった。私は開始して五分も経っていないというのにもう既に腰も肩も痛い。
ただ止めるわけにはいかない。
「ごめーん。よし、こい」
私は叫ぶ。美和子は力強くボールを投げる。手を伸ばしてキャッチしようとする。目測が私の頭のかなり上だったので思い切りジャンプしてみた。
だが、それがまずかった。
ジャンプをしたら思ったよりもボールが落ちて顔面に当たったのだ。さらに私は着地の際に腰を痛めてしまい、顔面をおさえながらそのままうずくまった。
美和子が駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
鼻血が止まらなかった。手は血だらけだ。
「もう慣れないことするんだから」
美和子はポケットティッシュを取り出しては鼻を拭いてくれた。
あぁ、もう自分のダメさ加減が嫌になる。私は笑顔を作る。
「もう大丈夫。続きをやろう。意外に楽しいね」
私は勢いよく立ち上がると腰が痛くてふらついてしまった。
「無理しないで座ってなよ」
美和子に言われる前に私はしっかり立つことができずへたり込んでしまった。
「ごめん」
私は申し訳なくてただ謝ることしかできなかった。
「本当にごめん」
繰り返す私の顔を美和子は覗き込む。
そしてぷっと噴き出した。
「ほらほら。そんな泣きそうな顔をしないの」
青空で美和子の笑顔がより映えた。呆然とする私に美和子は続ける。
「しばらくここで休憩しましょう。いい天気だし、日向ぼっこもいいんじゃない」
美和子が右手で私の頬を触った。そして私の横に座る。
「気遣ってくれてありがとうね」
泣きそうだ。何かかっこいいことを言いたかったが思いつかずにただ大きく頷いた。
「なんか懐かしいなぁ」
ぽつりと美和子は漏らした。
ぽかぽか陽気の日向ぼっこ。くすぐったいような温かな光で急速に二人は温まっているように思えた。
いや、気を緩めるな。私はちゃんと美和子を見続けよう。美和子の微笑みを見ながらそう思ったのです。(了)
終わりに
少し遊びながら書きました。
私は相手を大切にするというのは、何かこういう言葉をかけるとか、こういう手伝いをするとかではなくて、相手に興味を持つことが一番大切だと思っています。
パートナーが苦しんでいてそこに心を向けて素通りするような無関心はゆくゆく壊れてしまいますよね。
この話はおしまいです。
また創作物はぽちぽち載せます。よろしくお願いします。