はじめに
創作ショートショートです!
2,3分で読める読み切り1000文字小説。
ぶら下がり父さん
父はぶら下がり父さんになった。
「人間は色んなものにぶら下がって生きているぶらぶーら、ぶらぶら」
ある日別人に生まれ変わったようなセリフを吐くものだからびっくりしてしまった。
「美久、公園に行かないかぶらぶーらぶらぶら」
「会社は?」
「会社にぶらさがられるのにはもう疲れた。会社はちぎり捨てて父さんはぶら下がる側に行くよぶらぶーらぶらぶら」
頭がおかしくなってしまったのだ。
定年を迎えたお父さんが家での居場所がなく、スーツを着て会社に行く体でぶらぶらほっつき歩くという話を聞いたことがある。会社にぶらついた男の末路の話。でもうちの父は逆も逆、ぶら下がられるのに疲れたなんて対処法ゼロの新しいケースだ。
「暮らしはどうするの? 働かないとお金がないじゃない」
「国にぶら下がり、家族に、美久にぶら下がることにするよぶらぶーらぶらぶら」
「最低ね!」
「ぶらぶら」
話にならなかった。私がぷんすか怒っていると父はぶらぶら言いながら外へ出て行ってしまった。
玄関の閉まる音を聞きながら私はしばらく考えていた。あれだけこつこつ働いてきた父がなぜこうも急にぶらぶら言うようになってしまったのだろう。
父は壊れてしまった。
怒りが心配に変わり私は公園へと駆けた。
母のいないこの家庭をずっと支え続けた父は色んなものを損なった末に壊れてしまったのだ。それは私のせいでもあったに違いない。
父はすぐに見つかった。
近所の公園の鉄棒にぶら下がってぶらぶらしていたのだ。疲れたら腕を離してへたりと座り込んで休む。回復したらまた鉄棒に掴まってぶらぶら揺れている。
なんどかその繰り返しを見た後、私は父のぶら下がる鉄棒へと近づいていった。
午前中の公園は近所に住む若いママと子ども達で賑わう。Tシャツ、ジャージ姿の中年男の姿はその中で明らかに浮いていて鉄棒の周りだけはぽっかり誰も寄り付いてはいなかった。
「ぶらぶーら、ぶらぶら。ぶらぶーら、ぶらぶら」
父の目線は真っすぐ斜め上の青空を向いていてその瞳は輝いていた。だんだんと短くなっていくぶら下がる時間と反比例して輝く瞳の色に私は始めどんな言葉をかけていいのか分からずおろおろと、しかし、そのうちに父の先にあるものを知りたくなった。
いくらでも壊れてもいいなんて言うには私は人生経験もまだまだだけど、ぶら下がり父さんはきっと父らしくていい。
私らしさって?
なぜだろう。頭の中にはお気に入りの黄色いカーテンが浮かんだ。
終わりに
「何書いてるの、おまえ」と言われても仕方ない内容ですよね。
それが他人が読むに堪えるものなのかは二の次で(工夫はします)頭にある個性のある事柄を繋いでみたくて書いています。
書いてて面白い。読んで面白いというものを目指して。
https://tokeichikura.com/sousaku03