創作

『リセットリセット』【創作1000文字小説】

1000文字以内で書いた創作ショートショートです。

2,3分で読めるくらいの内容です。

『リセットリセット』

「竹本リーダー、隆君のことつかえねーなって言ってたんだけど、彼は見えないところでよく動いていますよってわたし、言ったんだ」

無防備に電話で香の愚痴を聞いていたらするっと零れた言葉が隆こと僕の胸に突き刺さる。竹本リーダーがいつも僕に見せる笑顔が浮かぶ。

本当の竹本リーダーは……そうなんだ。

「ありがとう」

何が「ありがとう」なのだ。必死になって明るい声を出して。

「ううん、竹本リーダー、悪いのは隆君だけじゃなくて上司の丸山リーダーだよねって言ってたよ」

あぁ、つまんね。香の泣きそうな暗い声でかかってきた電話のやりとりの結末だ。

電話の向こうの香の声はもう普段のそれだった。

始めは仕事の相談に乗り、彼女の上司・竹本の愚痴に変わり、それを同調、相槌、驚嘆で全力を尽くして聞いていたと思っていたら、いつの間にか彼女はすっきりして僕は暗くなっている。

「じゃあまたね。急な電話だったのに話聞いてくれてありがと」

「ううん、まぁ、なんかあったらいつでも電話かけていいよ」

何とか最後まで明るく電話を終えて、ベッドの上から仰向けになって白い天井を見上げた。

明日仕事いきたくねーな。

ってか誰とも喋りたくない。いや、一人でいるのもつらい。仕事はやだけど。

冷蔵庫から明日用のビールを取り出して酔ったふりをして紛らわせた。

 

翌日の仕事はとにかく動くことを意識して頭の余計な回路を全て切って働いたのだった。

動いている内にごみのような昨日感じた気持ちはそれこそ廃棄されて晴れ晴れ仕事を終えた。

それでも仕事終わりに香に一緒に帰ろうと言われたことは断って一人で川沿いに歩き始めた。香は明らかにむっとした表情だった。

空を見れば綺麗な星空だ。何千光年も離れた星を見て綺麗と思う。その果てしなく離れた星の光はようやく僕に届いただけで本当は今、その星は光を放っているのかすら分からないというのに。

それでも綺麗なのである。

夏空の星をバックに花火が打ちあがった。

好きという気持ちもわくわくする気持ちも感じていた希望も夢も何もかも、もしかしたらその時の放った光の余韻のようなものが今あるだけかもしれない。

本当の今の気持ちって何だろう?

自分で苦笑する。「めんどくさ」

そして僕は花火の音が途切れた時、香に電話をかける。怒ったような声色の彼女に僕は必死に謝った。

すぐに新しく花火が打ちあがって「うるさくて何も聞こえないよ」と笑った香の声を聞いた時、また新しく花火が打ちあがった。

あとがき

うまく紛らわしながら、そのうち忘れてしまって明るくなって、いつの間にか楽しくなることもあって……とそんな日々を過ごしている感じを描きたくて書いたものです。

この毎日の積み重ねの先に恐らく大きなイベントがあって(結婚とか別れとか転職とか色々)それは大きな人生の大きな見出しになるのだろうけど、見出しにもならない地味な部分を1000文字小説として書いてみたら好みの感じになって嬉しかったです。

8月お盆休みを過ごされる方も働いている方も様々でしょうがプラス気分でもマイナス気分もうまく消化してよい8月が過ごしてくださいね。

私はシフト制なので何も変わらない日々ですが日々リセットしつつ、点在する休みに向かってがんばります!

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一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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