本屋大賞ノミネート作品です!
三浦しをんさんは『舟を編む』、『風が強く吹いている』、『まほろ駅前多田便利軒』など数多くのヒット作を生み出している作家です。
映画化された作品も多く認知度高いですよね。
またエッセイも多数出版されていてとっても面白くて、様々な形の文章で魅力を詰め込むことができる作家さんというイメージを持っています。
2006年には『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年には『舟を編む』で本屋大賞受賞とちょっと考えられないくらいの凄さです。
そして今回本屋大賞ノミネートされて『愛なき世界』は今までの作品とはまた違った切り口の作品です。
だって帯には大きく「恋のライバルは草でした。(マジ)」という文言。
マジです!
でもヘンテコ(死語?)な物語ではなく、熱さと面白さを兼ね備えた作品でしたので紹介させて下さい!
Contents
あらすじ
洋食屋「円服亭」店員の藤丸は住み込みで熱心に働いています。
藤丸は円服亭での出前の配達をきっかけにT大理学部で植物学研究室を訪れます。
そこで植物の世界に没頭する面々と出会い、1つの恋をするという始まりです。
帯を見ると植物をライバルに恋路の競争が始まるようなイメージもしないわけでもありませんが恋愛様相は物語のあくまで1面です。
植物と向き合い試行錯誤し失敗しこれ以上ないくらいに落ち込みながらも研究に打ち込んでいる人たちの姿が熱く描かれています。
そして料理という分野で頑張る藤丸が研究室のメンバーとは違った立場でありながらもそんな研究室の人たちと植物そのものに興味を持ち関係を築いていく物語です。
熱くて面白くて、そして読んだことのない新鮮さがあります。
ここからネタバレ注意!
愛なき世界の感想(ネタバレあり)
1つのことに没頭し乗り越えていく姿が非常に面白かったです。
しかも植物という身近にある存在の中で誰も知らないようなコアな知識の広がる舞台で。
藤丸くんがいることで分からない私も分からないなりに植物について少しずつわかっていき、半分もわかってなくても楽しく読むことができました。
三浦しをんさんの文章、面白い!
後半の本村さんが失敗してしまった時の藤丸くんが天然で思ったことを言ってしまうセリフ、
「『アッホー』を調べなきゃいけないのに、『アホ』を調べちゃったってことか。たしかに、なんかショックっすね」
空気読めない発言で本村さんの気持ちを考えると何言ってんだと睨みつけてしまいたくなるようなセリフなのに、ついつい笑ってしまいました。
というかこの藤丸くんの素直さというか天然さというか、笑わせようと笑わせようとしてくるんですよね。これだけ「~っすね」と「~っす」っていう語尾を敬語まがいに使う青年もいないだろうになんかはまってしまっていて笑ってしまう。
こういう真面目な中にコントを観ているようなかけあいを読むときっと三浦しをんさんは本を読むのも書くのも大好きなんだろうなぁと勝手に思ってしまいます。
文章に愛している感が伝わってくるんです。
書きながら大笑いしているだろうなぁと思うようなノリというか乗っている文章ががたくさんちりばめられていてこちらも文章に乗せられます。
そういう文章を読んでいると幸せだと感じます。
小説を通じた物語の力を感じさせてくれて嬉しいんです。
今は漫画も動画もテレビも映画も魅力的なコンテンツが多くて私も全部好きだけど、小説大好きだから活字ののりで大笑いできたり感動したりできると、これこれ、これがあるからどんなに忙しくなってもやめられないと思います。
終わり方については藤丸くんの前向きさが嬉しかったです。
何があっても相手を理解し、自分も一歩前に進んで行ける前向きさには憧れます。
振られたことも含めて藤丸くんは自分自身の前に進む力へと変えることができるのだと感じました。そのキャラクターは愛おしい存在です。
物語は終わってしまっているけれどこの先も藤丸くんはどんどん大きくなっていくのだろうと思える終わり方なので読後感もすっきりでした。
終わりに
本を読み終わった後に気持ちが前向きになれている小説は素敵ですね。
同時に今の自分はどうなんだと考えます。
フィクションの人物と自分を比べることは見方によっては愚かな行為なのかもしれませんが、どうしても考えてしまいます。
そしてもっと自分に求めるものを知るのです。
この物語のたくさん実験を繰り返して失敗して不安に思ってまた乗り越える人々の姿を見て、私も目の前のことをいくら失敗しても頑張ろうと思いました。
それにしても文章であまり知られていない世界を描くことってすごい。全部が日本語で描くわけだからなかなか誤魔化しもきかない。
たくさんの文献を読んで調べてインタビューをして一文字一文字の文字にしたためていく。その作業を想像すると途方もなく、尊敬以外の気持ちは浮かびません。
三浦しをんさんは林業を題材にした小説『神去なあなあ日常』などお仕事を描く小説でヒット作もあります。
実際に読者がなかなか体験できないことをがっつりと本気で小説で描いてくれることは有難くて、この『愛なき世界』も含めて、こういう小説こそたくさんの人に読まれたら「小説ってすごいなぁ」と思ってもらえるのではと感じました。
若い人にはこれからの選択肢が広がるかもしれないし。