『かがみの孤城』で2018年本屋大賞受賞後の第一作となる作品です。
『凍りのくじら』や『ツナグ』、『鍵のない夢を見る』など、いくらでも会話ができてしまうくらいの読んでいて記憶に残るような名作が著作には並んでいます。
『かがみの孤城』も含めて、それぞれ違った面白さがあってじっくり読みたい読書として私にとって大・おすすめの作者です。
この『噛みあわない会話と、ある過去について』はまた他の作品とは違った雰囲気の面白さがあると思います。
変わらないささる気持ちが描かれているというのはどの作品も同じですが、この短編集ならではの凝縮された面白みのある作品を紹介します。
簡単なあらすじ・説明
美術教師の美穂には、有名人になった教え子・佑がいます。テレビ番組の収録で佑が美穂の働く小学校を訪れます。久しぶりの再会が彼女にもたらすものとは?
大学時代、コーラス部でよく女子とつるんでいた男を感じさせない男友達「ナベちゃん」。卒業して7年、彼が結婚するといいます。ナベちゃんの婚約者はふるまいも発言もどこかズレているように感じられます。戸惑う私たちに追い打ちをかけた信じられない頼み事とは?
全部で4作の短編が収録されています。
噛みあわない会話と、ある過去についての感想
同じ空間を共有していたとしても過去の見え方や捉え方はそれぞれ当然違います。
会話には感情のズレがあるし、救いもあれば後悔もあります。
ありがちだけど決定的に痛い感情のすれ違いを刺さる文章、会話で綴られています。
本当にうんうんとよくわかる話ばかり。
そしてとても痛い。辛い。
つい自分の過去と照らし合わせて「あの時はどうだったのだろう」とか考えてしまう。
短編4作が入っていて読みやすいです。
読みやすさの中にそれぞれの短編で心の何処かに刺さって頷いてしまったり、ただ苦しくなったりします。
人の感情のやりとりって過去になってしまえばどうでもいいことのように片付けられてしまうことも多いけど、本当は繊細で鋭くて、しっかり分かってしまえば痛くて辛いことも多いのかもしれない。
きっと私にとっても。
終わりに
心に突き刺さる文章であり、本当に「怖い」文章でした。
きっと過去の見え方は人によって違うのだと思います。
そういう気持ちを拾える辻村深月さんの作品はやはりすごいと思いながら読みました。
皆に好かれようなんておこがましいにもほどがあるとは思います。
ただこの小説を読んでいるともしかしたら誰かを傷つけて、それに気づかずに生きている自分にへこみました。
そういう気持ちの沼って底なしで考えれば考えるほどはまります。
誰にでも好かれたいとは思いませんが、気持ちが鈍感にならないようにはありたいとは思います。
ここを攻めてくるか思うような小説でした。私にとって大切な気持ちの流れが描かれている作品でした。