2016年本屋大賞受賞作!
2016年の本屋大賞は私の中で非常に個性豊かなラインナップで、まるで受賞作品が読めない年でした。
2位は昨日新作の『麦本三歩の好きなもの』を紹介しましたが、住野よるさんの『君の膵臓がたべたい』。『君の膵臓がたべたい』、大ヒットでしたね。
そして米澤穂信さんの『王とサーカス』はミステリー3冠(『このミステリーがすごい!2016年度版』、<週刊文春>2015年ミステリーベスト10、「ミステリーが読みたい!2016年版」)作品。
そして、芸人の又吉直樹さん、児童文学作家の中脇初枝さん、映画監督でもある西川美和さんの作品がノミネート作に入りました。
他にも辻村深月さん、深緑野分さん、東山彰良さん、中村文則さんと私の好きな作家さんも含めて、顔ぶれが本当個性的!
これから読みたい作家さんが増えたことに喜びも感じました。
その中で堂々の一位に輝いた宮下奈都さんの『羊と鋼の森』!
昨年映画化もされ、話題になりましたね。先日の本屋大賞特集の記事の中で昨年の受賞作を取り上げましたが、一昨年の受賞作も本当におすすめなので紹介します。
あらすじ
将来の夢を持っていなかった主人公の外村は高校でピアノ調律師である板鳥に出会います。板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられ外村は念願の調律師として働き始めます。
ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村の調律師として、人として、成長する姿を描いた作品です。
ここからネタバレ注意。
羊と鋼の森の感想(ネタバレあり)
描かれている世界について
この作品ではピアノの調律師の世界が描かれています。
ピアノ調律師はピアノをただ調律すればいいということだけではなくて使う人の用途や環境に応じて望む音にたどり着けるように調節する繊細な仕事です。
だからこそ、調律師もピアノの持ち主にとってはお気に入りの調律師というものが存在するような世界でもあります。
職業がピアノの音を中心に描かれた話なので全体として優しくて柔らかくて綺麗で美しい雰囲気が漂っています。
また、ピアノ調律師の世界が調律師として働き始めた1人の青年外村の成長と共に描かれています。真っ直ぐで素直な青年です。それを取り囲む人たちにも純粋さを感じました。
題材と登場人物の透き通ったような言葉がよく合っていて読んでいる時、穏やかで優しい気持ちになれていたような気がします。
主人公・外村の魅力
外村は素直で真っすぐな青年です。感じたことについては頑固とも言えるくらい信じ通せるところもあります。
分からないことや知りたいことをしっかり聞くことができるし、音について向き合う純粋で熱い気持ちを持っています。
調律師はお客さんと相対していくのでお客さんの抽象的な(「おかげさまで、音が丸くなりました」とか)要望や感想を聞くこともあります。
外村は真っすぐ分からないことを考える性格なのでその心理描写の流れが読者の気持ちに寄り添っていて、今まで知らなかった職業でしたが外村に寄り添いながら物語を読むことができました。
特に印象に残った外村の内面の動きがあります。
ふたごの由仁が外村を訪れた場面です。ふたごの由仁と和音はどちらかがピアノを弾けなくなったという理由で調律をキャンセルをしてしばらく経っていました。
由仁が明るい表情で現れて外村の気持ちは「明るく」なります。
そしてその理由が外村はふたごのどちらかがピアノを弾けなくなったということを聞いた時に「とっさに和音のピアノが残ることを願った。」と振り返ります。「そう思うことに罪悪感があった。」とも。
だから、
由仁に申し訳ない。申し訳ないと思うことさえ申し訳ない。(中略)
だからこそ、今、由仁が来てくれてうれしい。元気そうな顔を見せてくれてうれしい。僕の罪が一片だけ軽くなったような気がした。
という理由で気持ちが「明るく」なったと思います。
綺麗な気持ちをなぞるだけではなくて、自分自身を嫌になってしまうような一面に真っすぐに向き合う姿が純粋で外村の印象が私の中でぐっと濃くなった瞬間でした。
自分の気持ちの流れを振り返ってみて罪悪感にかられることは私もあります。それを思い出す度に、思ってしまったことだからどうしようもないのだけれど「なんなの、おまえ」と自分自身にうんざりします。
だからこういう外村の気持ちの流れは共感できて、調律師の腕だけではなくて一人の青年の成長の姿に目が離せなくなりました。
終わりに
ラストも結婚式でのピアノの音色が終わって外村の調律師としてのこれからが明るくなっていくような終わり方で晴れ晴れした気分で本をとじることができました。
あと羨ましくなってしまうくらい素敵な職場があって、素敵な同僚と先輩がいて、なんだこの世界はと小説の世界ながら嫉妬しました笑
冒頭で上げた本屋大賞ノミネート作の中で『羊と鋼の森』が受賞に至ったのも納得のすがすがしい面白さが詰まっていました。