エッセイ

ヤマザキマリ『ヴィオラ母さん』感想【破天荒な母の生きる楽しさ】

波乱万丈という言葉が似合う規格外の人生!

著者のヤマザキマリさんは『テルマエ・ロマエ』などの作品で有名な漫画家さんです。

そんなヤマザキマリさんを育てた破天荒な母・リョウコさんの人生を語ったエッセイです。

自分が本当にやりたいと思っていた仕事に就くために実家を飛び出した。

おかげで両親からは勘当状態になってしまい、しかも新天地・北海道で自分の理解者ともなる男性を見つけて結婚するものの早くに先立たれ、シングルマザーとして二人の幼い娘を抱えることとなる。

誰かに縋ることもできず、育児も家事も仕事もすべて自分でなんとかすることしかなかった。(はじめに)

力強くて優しい個性の塊のような母が昭和を駆け抜けていきます。

文章のパートと漫画のパートがあって笑いと驚き半々で隅から隅まで楽しむことができる一冊です。

ここからネタバレ注意!

ヴィオラ母さんの感想(ネタバレ)

「演奏家」という職業が珍しかった時代にヴィオラ奏者としてクラシックの道を突き進もうと決め一心に進んでいきます。

そして「知らない土地で新しいオーケストラができるという、そのドラマチックな状況に立ち会ってみたかった」という理由で上野から札幌行きの寝台列車に乗り込みます。

前しか向いていないリョウコさんのすさまじさには興味を越してすがすがしくこちらまで前を向こうという気持ちにさせてくれます。

特に気持ちに残った3つのエピソードを書きます。

リョウコさんとハルさん

再婚した夫の母親・ハルさんとのエピソードです。再婚した夫はサウジアラビアに住んでいて完全別居の状態です。

ハルさんは背中が曲がった小さなおばあさん。

夫との結婚を機に「せっかくですから一緒に暮らしましょう!」と住むことに。

夫はサウジアラビアへ戻ってしまって、ゆくゆく離婚することになるのですが、高齢のハルさんとはこのまま一緒に暮らすと本人と話をつけたらしいです。

その流れだけでも一人の人間を一人の人間として見ているというか、感じ入るところがあるのですが、その先です。

結局ハルさんは血縁のない自分がお世話になっていることを気にしてか失踪してしまいます。置手紙を残し去ったハルさんの決意を感じてリョウコさんも追いかけることはしません。

でもそれからしばらく経ったある日、ハルさんから一枚の郵便はがきが届きます。

そのはがきに書かれた「みなさんとまた一緒に暮らしたい」という一行を見るやいなや車を走らせハルさんを迎えに行ったそうです。

ハルさんが感じているであろう心細さを感じていてもたっても居られなくなったリョウコさんの姿といったら、なんていうか、本当に、

こうありたい人柄。

再び一緒に暮らすことになりハルさんの晩年。

 亡くなる寸前に、ハルさんが病院のベッドでたった一言つぶやいた言葉は「リョウコさん、ありがとうございました」だった。母は微笑んで「こちらこそありがとうございました」と返した。

「私」の三者面談の話

ヤマザキマリさんの三者面談でマリさんは美術の道に進みたいということを担任に告げます。

「学校で美術を教えるということ?」と質問され、画家になりたいということを伝えます。

もし自分の子どもや生徒が「画家になりたい」と言ったらどう返答するでしょうか。

担任は動揺をリョウコさんと分かち合おうと顔を向けるとリョウコさんは「ほんとにねえ」と照れ臭そうに笑ったそうです。

でもその後の言葉でした。

「でも、子供の時から絵描きになるって言い続けていますから、本当にそれしかかんがえられないんでしょう」と言葉を添え、「本人の人生ですから本人に決めさせます」ときっぱり言い切った。

「本人次第」というのは勿論その通りなのですが、ずっと見てきてからこそきっぱり言い切れる言葉に感じられました。

その後に知人のいるヨーロッパへ一か月旅行へ行くという大胆な提案があります。

リョウコさん自身も両親の反対がなければ海外の学校で本当の音楽を勉強したかったと口にしていたことがあったようです。

三者面談があってリョウコさん自身の経験も踏まえての提案なのだと思います。

三者面談の言葉と本気の応援、最高です。

旅をしてから担任は進路に関してああだこうだということはなくなったそうです。

リョウコさんの育児日記

破天荒さがクローズアップされがちな本ですが、育児日記の内容はリョウコさんの中でのヤマザキマリさんの存在の大きさが感じられます。

考えてみれば愛する夫を亡くし、辛い時期を乗り越えようとして必死になっていたリョウコさんのそばにあったのは子どもの存在でした。

やがてヤマザキマリさんも出産を経て、リョウコさんとの関係は母であり同志という感覚になります。

きっと母と子の関係は一つずつ違っていて、リョウコさんとマリさんの関係に「なんか楽しそうだなぁ」と感じてしまうわけです。

終わりに

この本は先日読書会に参加して他の参加者の方が紹介されていて興味を持った本でした。

強さは色々な形があるのだと思うのですが前向きで凄まじい強さに少しでも触れてみたくなりました。

実際に読んでみると上記したエピソード以外にもたくさん笑ってしまうリョウコさんらしさが詰まっていて本当に面白く読ませてもらいました。

家の設計の話とかそれすらも軽く「失敗だった」と言ってしまうのがリョウコさんらしくてこれを読んでいたらささいな失敗で自分はめげてられないと思いました。

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一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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