こざわたまこさんの心がざわめく連作短編集!
昨日から引き続きの紹介ですが私はこの作品でこざわたまこさんを知ったのでどうしても伝えたい一冊でした。
「野口は、この村いちばんのヤリマンだ。けれど僕は、野口とセックスしたことがない」
書き出しの文章です。連作短編集の第1作目「僕の災い」は第11回「R-18文学書」読者賞受賞作です。
帯の紹介を載せます。
閉塞感に満ちた村、少年、そして音楽というのは私が偏愛するテーマでもあり、村一番のヤリマンと称される野口との出会いは、冒頭からさあ、どうなってくれるのだろう、と期待させられました。村の高校生たちの、内部で閉じている雰囲気も好き。(辻村深月)
鬱屈の泡がはじけ飛んだとき、少年・少女たちは暗いけもの道を全速力で走り出す。その先に光があるかどうかはわからない。こざわさんは、それを、とても正確に描く。(窪美澄)
作品が宿す熱量、語りたいことがあるんだという主人公の雄叫びにしびれた。(三浦しをん)
まだ三十歳にもなっていない作者が、五十代半ばのオヤジ(僕です)をねじ伏せて肯わせるほどの筆力で、中年の男や女の姿をみごとに描き切った。(重松清)
私にとって大切な本の一つです。
Contents
簡単なあらすじ・説明
舞台は、巨大なスーパーマーケットと国道沿いのラブホテルが夜を照らす小さな村です。
街中みんなが知り合い、という場所で生まれ育った高校生と大人たちはそれぞれ閉塞感とやりきれない思いを抱えながら暮らしています。
彼らの鬱屈した思いは、家族に、クラスメートに、そして時にセックスに向かっていきます。
閉塞感に満ちた村の高校生や教師の物語。
出会い系、不倫、家庭崩壊、諦めながら見る将来の夢などそれぞれの様々な暮らしの中で光を探して必死でもがく人々の姿が描かれています。
負け逃げの感想
連作短編集の形式でそれぞれ違った視点から成り立っています。
帯の作家が好きな作家ばかりで読まないわけにはいかないくらいに惹きつけられました。
復讐のために村中の男とセックスするという野口さんの話が序盤にあります。
なんか設定でもっていくようなイロモノ感を始め感じたのですがまるでそういうことはなくて、読み終えてみればごく繊細に描かれた青春小説です。
今まで自分でも気づかず過ごしてきた小さくて、でもその時の空気感がでるような気持ちがこの小説の中にたくさん詰まっていて、物語の熱量がとても生々しく身近に感じられました。
必死さがうまくいかなくて、壊れたものが直ったようで微妙に違っていて、それでも時間も気持ちも関係も進んでいきます。
この話の中で出てくる田上くんと野口さんが大好きです。
最後の話、とってもよかった。
終わりに
読書する作家の数が偏ることがあります。
特に社会人になってからは学生時代に好きだった作家は追うけれど何か新しい作家を追おうという気持ちがなくなっていた時期があります。
でも今の時代はSNSやブログを介して色んな感想に触れることができるから読みたいという作者が増えてきました。
こざわたまこさんはその中の一人でここ数年で大好きになった作家さんです。
この『負け逃げ』がきっかけでした。
こういう出会いがあることが分かっているからこそ、本屋でうろうろ悩んで読んだことのない作家さんでもチャレンジしてみるのだと思います。