第161回直木賞候補作。
マジカルグランマとは何でしょうか?
なんとなくおばあちゃんが奮闘する話を思い浮かべながら読み始めました。
「ほのぼのおばあちゃんが奮闘する温かい話」
でもそれこそが私のこの本で言う「マジカル」的な部分でした。
驚きの混じった物語の勢いを楽しめるおばあちゃんの波乱万丈ストーリーです。
簡単なあらすじ・内容説明
女優になったが結婚して引退し、主婦となって過ごしていた正子は75歳を目前に再デビューします。
「日本のおばあちゃん」の顔になったり、逆に国民に背を向けられたり……。
「理想のおばあさん(マジカルグランマ)」から脱皮し波乱万丈に生きる正子の姿が描かれたエンターテイメントです。
ここからネタバレ注意
マジカルグランマの感想(ネタバレ)
正子とマジカル〇〇
ハリウッドでは、白人を救済するためだけに存在する、魔法使いのようになんでもできる献身的な黒人キャラクターは、マジカルニグロ、とあえて差別用語を使って、批判的に語られているらしい。
セクハラを受けたオーディション会場での会話から正子は「マジカル」について学びます。
物語を進めるために都合のいいイメージのキャラクターということです。
正子が再デビューをした時に演じていたキャラクターを思い返し気づきます。
「つまり私って」
正子は足を留め、看板を見上げながらつぶやいていた。
「マジカルグランマだったってことなの?」
世間の求めるおばあちゃん像に自分を当て込み、お金をかせぐことにまるで疑問を持たなかった自分に気づき、価値観がぐらぐらと揺れます。
ここから正子さんのまるで驚くような発想に繋がり大活躍していくわけですが、私も正子さんの言葉と共に価値観がぐらぐら揺れるのを感じました。
身の回りにたくさん固定観念というかイメージは本当に嫌になる程今世の中を流れているのだと思います。
お昼のニュースを観てみてもコメンテーターはそんな理想的なイメージにのっかって話を進めて、そうではないと叩かれる風潮が強くなっているように思えることも少なくないです。
そして残念なのは自分にもそういう頭が少なからずきっとあって幅が狭いなぁと思いながら読み進めました。
でも私自身、自分らしく生きることはいいと思うし素敵だと思ってるのになかなか考えさせられます。
もう既に波乱万丈な人生を送っていると言ってもいい正子さんが自身のマジカルな部分に気づき、さらに予想不可能な展開を突き進んでいる姿は驚きのような面白さがありました。
正子と仲間たち
正子の周りには個性的な人物が集まっています。
それぞれ優れている力があるのだけどくすぶっている感じの人たちという印象です。
正子の心機一転、自宅をお化け屋敷にするという発想から力を発揮し始めます。
特に私が心に残ったのは杏奈との関係です。
杏奈は正子の夫のファンでしたから夫の死後の正子の態度で「なんて自分勝手なんだ」と嫌いです。
それでも一緒に暮らして振り回されて、そして共に作り上げていく内に杏奈は正子の家が自分の家のように感じるまでに仲を深めていきます。
その過程がゆるやかですけど少しずつ育まれていて一つ一つの場面でそれに気づく度に嬉しくなりました。
そしてラストの杏奈の手紙の段で正子がオーディションに落ちて慰めようとして、正子の自分の未来や自分の生活を真剣に考えてる姿はいい、という内容のことを話すと正子は、
「私が今、幸せじゃないんだから、そんなもん、どうだっていいことよ!」
彼女はプリプリしてそのまま雪崩のように愚痴り続けましたが、私は笑いが止まりませんでした。
笑いが止まらないくらい正子の姿が馴染んできているまで育まれた二人の関係は素敵です。
杏奈以外にも陽子さんや紀子ねえちゃん、野口さんなど魅力的で個性的な面々がそれぞれの気持ちを持って強烈な正子さんと絡んでいく場面は、だんだんといちいち笑えるくらい楽しいものでした。
マジカルグランマの感想まとめ
ちょっと驚いてしまうほどスケールが大きくなっていってその中を逞しくというか自分の感情に素直にわがままに過ごしていく正子さんの姿、
すごい!
そんな風に途中途中考えさせられながら読んだのですが、正子さんの他人の気持ちを気にせず突き進むあたり、時々苦笑いになりながらもなんか愛らしくて面白かったです!
おばあちゃんなのにここまで動けてすごいという物語ではなくて、世代関係なく思ったこと、感じたことに素直になってそのために全力を尽くす姿を楽しめる話でした。
マジカルグランマを読後、感じた個人的〇〇
直木賞候補作になったということもありますが本屋で手に取った一番の理由はおばあちゃんの物語だということです。
インスタでは昨年、おばあちゃんの見舞いで福岡を訪れた話など書いたことがありましたが5月末で亡くなり来週末に四十九日です。
離れて暮らしていたからほとんど接点はなかったのですが、今になってよく考えることが多くなりました。
だから題材として興味を持って読み進めました。小説と真実は違うにしてもおばあちゃんの心情のかけらに触れたかったです。
この物語には認知症の陽子さんも登場するし、私の施設でも利用者の高齢化は進んでいます。
関わる機会は増えてきているのに個人個人のもっと個性に興味を持てているのかなぁと自分自身で思いました。
「こうあるべき」みたいなそれこそマジカル的な考えを押し付けるような付き合い方になっていないかな。
この物語の正子さんが最後に文句ばかり言いながらも幸せそうに見えるように、私の周りの人の表情も同じように活き活きと幸せそうな姿であることはやっぱり私自身も嬉しいですからね。
価値観の幅を広げてくれるような読書でした。