国立西洋美術館開館60周年記念「松方コレクション展」に行ってきました。
「日本の芸術家、人々のために美術館を作りたい――」
松方幸次郎の想いの末に設立された国立西洋美術館。そんな松方幸次郎や彼を支えたタブローを愛した人々の物語が原田マハさんの『美しき愚かものたちのタブロー』です。
開館60周年を迎えた国立西洋美術館で「松方コレクション展」が始まった。「美しき愚かものたちのタブロー」は、私が子供の頃から親しんだ同館へ贈る物語の花束。いま、上野に西洋美術館がある、それが普通であることの奇跡。松方幸次郎と彼を支えた美しき愚かものたちへ、敬意と感謝を込めて。 https://t.co/NDaGcPyPIc
— 原田マハ (@haradamaha) June 12, 2019
そして『美しき愚かものたちのタブロー』に魅了された私は迷うことなく「松方コレクション展」に向かいました。
奇跡の美術館で松方幸次郎の物語と散逸してしまった名作を堪能してきましたのでここに紹介します。
Contents
松方コレクション展、案内(料金、アクセス情報含む)
2019.6.11(火)~9.23(月・祝)で国立西洋美術館で開催されています。
アクセスはJR上野駅公園口を出て上野公園に入りすぐ。(改札からも見えます)東京文化会館の向かいです。
[観覧料] | 一般 | 大学生 | 高校生 |
当日 | 1,600円 | 1,200円 | 800円 |
団体 | 1,400円 | 1,000円 | 600円 |
松方幸次郎は日本には当時(1916‐1927年頃)西洋の名画を見る機会を持てなかった日本の美術家、人々のために大量の美術品を買い集めます。
共楽美術館(共に楽しむ美術館)を作るという夢の元、奔走しますが昭和金融恐慌のあおり、ロンドンの倉庫火災、第二次世界大戦末期のパリでのフランス政府による接収によって夢は叶わぬまま生涯を終えました。
戦後フランスから日本へ松方幸次郎の集めたコレクションの内375点が寄贈返還されます。そして1959年上野に国立西洋美術館が誕生し、ようやく松方コレクションは安住の地を見出したのです。
今回、この松方コレクション展ではオルセー美術館の至宝・ゴッホ〈アルルの寝室〉をはじめ、世界各地に散逸した松方旧蔵の名作が集結した「夢の再会」ともいえる美術展です!
かけがえのない3点のタブロー
思い出深い三つのタブローにまつわるエピソードを話し終えると、田代はサルの目をまっすぐに見ながら澄んだ声で語りかけた。
「ジョルジュ、お願いだ。このかけがえのない三点を、日本へ連れて帰らせてくれないか。――いまは亡き松方さんのためにも」
『美しき愚かものたちのタブロー』で田代がフランスで〈松方コレクション〉の返還を求める交渉を行います。交渉後、偶然、交渉相手でありかつての親友であったジョルジュ・サルと出会い、お願いする場面です。
寄贈返還のリストには含まれていないコレクションのハイライトとも傑作があり、その中でも田代たちが最後の最後までリストに入れて欲しいと拘った傑作がありました。
ゴッホの〈アルルの寝室〉、ルノワールの〈アルジェリア風のパリの女たち〉、モネの〈睡蓮、柳の反映〉です。
しかしフランス側はどうしても首を縦に振りませんでした。それでも粘り、ルノワールはリストに入れられる運びとなりました。
そしてなんと今回の松方コレクション展ではこの傑作三点が揃います。
他にも松方コレクション展にはロダンの〈考える人〉やマティスの〈長椅子に座る女〉など見所はたくさんあり、私自身その場で立ち尽くして美術作品に心を奪われる時間がありました。
今回の記事では足を運ぶきっかけになり、『美しき愚かものたちのタブロー』で「かけがえのない三点」とエピソードつきで紹介された三枚の絵画について紹介します。
ゴッホ〈アルルの寝室〉
初めて目にしたゴッホの絵。――ぐうの音も出ないほどやられてしまった。それは、まさしく芸術の神の打擲であった。
打擲とは「人をたたくこと」です。
神に叩かれたかのような衝撃!
極めて平面的、つまり正しく「絵画」的な絵。それなのに、映画の一コマが飛び出してきたような動きのある絵。具象的なのに、抽象的。にごりのない色彩と大らかな色面。まるで、彼が愛したという浮世絵のような――。
――奇跡の一枚であった。
日本の浮世絵を愛したと言われるゴッホの奇跡の一枚。
引用したのは松方と行動を共にした美術史家・田代の気持ちですが、松方の部下・日置もフランスに残り松方コレクションを守る暮らしをしていく中でこの〈アルルの寝室〉に目を奪われます。
一見して奇妙なのは、この絵にはまったく影が描かれていないことだった。それでいて、描かれているすべてのものが浮かび上がり、こちらへ迫ってくるように感じられる。くっきりとした色彩は目に見える音楽のようだ。あふれる躍動感に、日置の心は瞬時にしてとらえられた。
〈アルルの寝室〉は寄贈返還されることはありませんでした。ただ今回の松方コレクション展には展示されています。
日本にいて直接観ることのできる貴重な機会です。
ルノワール〈アルジェリア風のパリの女たち〉
名画との忘れがたい出会いは色々あったが、もうひとつはルノワールとの出会いだった。
と田代は語り始めます。
「ハーレムの女たちに扮したパリジェンヌは、ほのかな色香をまとっていて、いつまでも飽かず眺めていたい気持ちが込み上げてくる……そんな一作だった。ルノワールの作品は、それまでにリュクサンブール美術館で見たことがあったんだが、あの絵は題材も特殊だし色も抑え気味で、それまでに目にしたルノワールとは一風違っていた。ルーヴルにあるドラクロワの作品、〈アルジェの女たち〉を下敷きにして描いたのだということには、すぐには気づけなかったけれどね」
いつまでも飽かず眺めていたい気持ちが込み上げてくるという気持ちがよく分かりました。
パリジェンヌがハーレムの女たちに扮した絵であるということで表情や足元の綺麗なアクセサリーなどしばらく眺めていました。
モネ〈睡蓮、柳の反映〉
(デジタル推定復元画)
この作品は所在をフランス政府も把握できていないことが分かりあきらめざるを得なかった作品です。
それからも長い間所在不明でしたが2016年にルーヴル美術館の一角で、画布の上半分が失われた状態で発見されました。上半分が失われた状態ながらも修復に手を費やした作品が展示されています。
そして失われた部分について損傷を受ける以前に撮影された全図の白黒写真をもとにデジタル推定復元された〈睡蓮、柳の反映〉が展覧会で公開されています。(デジタル復元画については写真撮影可)
拙いけれどもていねいなフランス語で、つっかえつっかえ、モネに向かって〈睡蓮〉の大作を譲って欲しいと懇願した松方の姿が小説の中で語られています。
縦2メートル、横4.25メートルのこの〈睡蓮〉は圧倒的存在感で展示されています。
松方コレクション展@国立西洋美術館に行ってみて
平日の午前中に行きました。
人は入っていましたが絵をゆっくり観る時間はとれました。(通路一杯で後ろから次々に人が入ってくるような状況ではありません)
チケット販売所も5分待ちくらいの列でした。私は一応念のため、事前にインターネットで購入してスマホのバーコードチケットで入場しています。スムーズでした。
絵について詳しくない方も音声ガイド(550円)が借りられるので代表的な絵画のストーリーの説明と共に楽しむことができます。
音声ガイドのナビゲーターはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』のナレーションでも活躍されている橋本さとしさん。渋みのある落ち着いた声が絵画の雰囲気に合っていました。
お土産ではクリアファイルとポストカードを買って大満足の素敵な散歩でした!
読書の有無に関わらず楽しめる機会です。
まだ開催されたばかり。素敵な休日の使い方としていかがでしょうか。