あの角川春樹さんに、「これは成功する。」と断言された小説。
タイトルのインパクトもあって手に取ると笑いもあり、涙もあり、そして衝撃的な驚きのある物語でした。
帯に書かれた書店員さんのコメントを紹介します。
早見さん、もしかして隠してます? 書店員でした? リアルすぎます。『イノセント・デイズ』を読んでから眠れない日々をもらいました。『店長がバカすぎて』もやもやが発散されたので熟睡をもらいました。(ジュンク堂書店 滋賀草津店 山中真理さん)
書店業界だけで盛り上がるんじゃなくていろんな人に読んでもらいたい。カバンの中に忍ばせてある退職届を出すのはあと1日待ってみようと思うかも。タブーを作らない、早見さんの小説に向き合う背中を応援してます。(紀伊国屋書店 ららぽーと豊洲店 平野千恵子さん)
さすが早見さんは違います。よくぞここまで、と振り切っているだけでなく、終盤のドラマティックな展開も絶妙! エンタメ読み物としても最上級のレベルにあって感動しました。(三省堂書店 有楽町店 内田剛さん)
自分の人生に真剣に向き合うことが出来る本だと思う。なんでこう、本気で辞めようと思うときにこういう本が出てくるのだろう…また辞め損なった! 早見和真氏恐るべし。(丸善岡山シンフォニービル店 山本千紘さん)
本を愛する人々が織りなす物語。
読み終えて全国の書店員からの熱い声にうんうん頷きながら面白さの余韻に浸ることができました。
簡単なあらすじ・説明
現在、〈武蔵野書店〉吉祥寺本店の契約社員・谷原京子は文芸書の担当として日々忙しなく働いています。
「幸せになりたいから働いているんだ」
とにかく本が好きな谷原京子(28歳独身・時給998円)は同僚との人間関係や人生設計、そして本への愛情の狭間で上下激しい気持ちを抱えています。
そんな彼女の上司は山本猛という名前ばかり勇ましい「非」敏腕店長。
バカすぎると感じてしまう物事に囲まれて一所懸命生きている本を愛する人々の物語です。
ここからネタバレ注意!
店長がバカすぎての感想(ネタバレ)
28歳谷原京子の等身大な姿
年齢も性別も違うのに谷原さんのあけっぴろげな気持ちの流れが面白くて、それでいて私自身に気持ちに響きました。
給料日前にはお金が苦しくなってしまうことや、仕事の自己評価表には「1」を並べてしまうこと、朝の店長の謎のありがたいお話に苛々しまうこと、先輩や後輩との人間関係がうまくいかなくて落ち込むことなど、
書店業界だからという話ではなくて、とっても同調できる事柄ばかりです。
でも私は谷原さんほど気持ちを前に出すことはできなくてひたすら耐えて過ごしていた時期りましたが谷原さんは時々店長に噛みつかんがごとく喉を鳴らして怒りを表現するのではらはらしながらも、
大爆笑でした!
6つの話で本は成り立っていますが目の前のトラブルに立ち向かっていく谷原さんの姿は目が離せなくてあっという間に読み終えました。
どの年代でもあることだとは思いますが、好きな仕事をやる中でも現実的な問題は切り離せなくて周りの人々の姿に嫉妬したりあせったりしながら過ごす姿は共感できるし、谷原さんが前を向いた時にはとても励まされます。
時期尚早ですが連続ドラマの画がぱっと頭に浮かんでだれだれが合っているなぁとか妄想していました。
大爆笑! 店長の姿
実際にこんな店長がいたら谷原さんみたいにいらいらすることもあるのだと思います。
でも絶妙なズレっぷりに段々好きになってきてしまうのです。
時々の偶然なのか的を得たような発言をした後にオチのような言葉を付け加えたり(テレサテンのくだり、笑いました)、最後に全部分かって行動していたのかと思いきや電話で「なんでそこに……」と驚いてみたり読めない店長です。
一番笑ってしまったのは武蔵野書店の社長が酔っ払って他所の書店で万引き疑惑で捕まってしまったくだりです。
駆けつけた店長と他所の書店の店長のコントのような言い合い、
「だから私は万引きを疑ったんだよ!」
「だったら容赦なく警察に突き出せよ!」
「なっ! あんたは何を言ってるんだよ? 御社の大切な社長だろう!」
「あんたは肩書きで人を判断する人間か!」
「なんだと?」
「この方が弊社の対越な社長であろうがなかろうが関係ない! 一度万引きを疑ったものは最後まで疑い抜けよ!」
「あんた、自分の言っている意味が分かってるのか?」
「わかってる!」
「ああ、じゃあもういい! 警察でもなんでも呼んでやらぁ!」
「おう、呼べ呼べ! 警察でも考案でもなんでも連れてこい!」
「だ、だ、だから違うんだ……。俺は……、俺は本当に……」
泥仕合……(笑)
ずれてよく分からない方向へ流れていく場面は都度いちいち面白くて一冊を通して何度も笑わせてもらいました。
驚愕のラストサプライズ
今まで出会ったことのないような伏線回収に驚きました。
あの時の言い間違いは?とか色々考えて私自身の頭も混乱の渦の中に……。
帯に書かれていた書店員さんからの「最終話を袋とじに!」という声はよく頷けます。
細かいことは伏せますが、何がどうなって誰がどうなっているのかペンとノートを出して確認して読みました。
あぁ、なるほど。もしかしてこういうことか!
そんな繰り返しです。
最終話を読むまで全く想像できませんでした。
それでも最後に混乱しながらも元気に活躍している谷原さんの姿が驚きの中でも嬉しくて本を閉じることができました。
店長がバカすぎての感想・まとめ
書店員が主人公の物語でリアルな本屋さんの世界が広がっています。
本屋さんという想像しやすい世界で、読みやすい文章で綴られているので本当にあっという間に読み終えることができました。
笑いやはらはらどきどきがある中で、時々共感できる悩みが胸に刺さってしまうような心情描写があります。
だから読み終えて感じたのは「楽しかった!」という気持ちもそうですが、こうやって面白さと悩みがあって日常は繋がっていくんだなぁ、と渋めの感想も頭に浮かびました。
私自身、学生時代に書店でバイトをしていた時期があって店長の謎さに頭を抱えた時期がありました。
大学四年の教育実習前に辞めたのですが最終日に店長にバックヤードで、
「先生なんてろくなもんじゃねえぞ」
と言われた言葉が頭に残っています(笑)
でも個性あって印象深い店長だったなぁなんてふとこの本を読んで思い出しました。
きっと書店関係なく、どこの業界でも印象深い上司の姿が思い起こされる「あるある」感満載の話で色んな人に楽しめる一冊だと思いました。